国産材の利用拡大には、木造の実績が少ない低層非住宅や中高層建築物への進出がカギを握るとされる。先進的な試みをする各氏が、普及に向けた課題や、当面、目指すべきターゲットなどを、日経BP総研 社会インフララボ 上席研究員の小原隆の司会で議論した。
小原:国産材を活用した木造・木質建築が増えてきたとはいえ、まだ多いとは言えない。発注者が建てたいと思っても、設計や施工のできる設計者や施工者は少ない。国内の森林は活用の適期を迎えているが、普及を図るにはどうすればよいのか。
そこで、このパネルディスカッションは、「これまで木造でつくられなかった建物でどのように木材を活用するのか」をテーマに議論してみたい。まず、林野行政の立場からすると、現状の課題はどこにあるのか。
齋藤:スギやヒノキ、カラマツといった代表的な樹種は、戦後に植えられたものが育ち、原材料として普通に使えるボリュームになっている。木材の乾燥やプレカットの技術も大きく進歩した。平成の初めには1割程度だったプレカットは、今では9割を占める。プレカットの品質確保に欠かせない乾燥技術も磨かれ、今では普通に乾燥材を手に入れることができる。
合板も、昔は広葉樹の南洋材を使っていたが、その後、ロシアの針葉樹にシフトした。そして今では国産のスギでも合板をつくれる技術が整っている。
このように、品質や性能の確かな木材製品は増えている。それらの活用を広げていくには、すでに大半が木造で建てられている低層住宅以外、つまり低層の非住宅と中高層建築物を視野に入れていく必要がある。どのような木材製品ならば、そうした分野で使ってもらえるのか。これまでの木材製品は、プロダクトアウトで生産してきた側面があるが、これからはマーケットインに切り替えていく必要もあるのではないかという問題意識を持っている。
腰原:今の話からも木造の難しさが分かる。木材というのは、材料のことを非常に気にしなければ使いにくいからだ。材料から工法まで「標準」が確立している鉄骨(S)造や鉄筋コンクリート(RC)造にはそうした心配がない。鉄鉱石の産地から考える設計者や施工者はいない。
世の中にある建物の大半は、標準的なごく普通のものだ。低層木造住宅やS造、RC造が普及しているのは「標準」があるからだ。
近年、木造の魅力をアピールするために、様々な木造建築が建てられているが、それらは頑張ってつくった「特殊解」だ。各種の技術が整ったことで、頑張ればつくれるようになった。しかし、「標準」は頑張らなくても、誰でもつくれるものでなければいけない。低層非木造、中高層木造には、まだ汎用性の高い「標準」がない。
普及を目指すならば、これまで個々に特殊解をつくってきた人たちの知恵を結集して、きちんとした木造をつくってみる。そのなかから普及につながるものを見出していくのが、現段階での課題ではないか。