厚生労働省は2018年2月、次の5年を見据えて、第13次労働災害防止計画をまとめた。22年の建設業における死亡災害者数は、17年の水準の15%減で250人以下を目指すという内容だ。建設業界が一丸となって目標を達成するためにも、安全衛生を巡る取り組みが一段と重要になっている。
VR(仮想現実)が、建設業の安全衛生教育の常識を変えつつある。VRというと、3次元の臨場感あふれる映像を見るだけというイメージが強いが、最近ではVRを使った「体感型」のシステムが主流になっている。
西武建設と岩崎(札幌市)が、日本大学理工学部の関文夫教授の監修の下、共同で開発したシステムはその1つ。モーションキャプチャーの技術を導入して、コントローラーを持つ装着者の動きを瞬時にデジタル化してVRに表示する。
「VR空間で自ら行動できるようにして、気付きを多く引き出す仕組みだ」。西武建設土木事業部の蛯原巌エンジニアリング部長はこう話す。
現在、同社が試験運用する教育システムでは、バックホーとの接触、クレーンの吊り荷の飛来落下、足場の点検という3つのシナリオを体験できる。既に3現場で協力会社向けの安全教育として使った。
各シナリオには、異なる方法で考えさせる出来事を盛り込んだ。例えば、バックホーとの接触では、実際の事故を再現。稼働中のバックホーの横を何もせずに通り過ぎようとすると、接触する場面を体験させる。
同社事業統括本部環境品質安全部の吉田和成担当部長は、「何とか向こうに渡る方法を自分で考えさせる。ぶつからなくなるまでやってもらう」と説明する。ある行動を取ると接触を避けられ、体験は終了する。
他方、足場点検のVRのように、事故の再現ではないシナリオもある。数十カ所に散りばめた法令違反箇所をチェックさせるのだ。VR内で長さを測る仕組みも導入した。
「恐怖体験だけで終わらせるのではなく、自分の行動で被災しないよう終えることもできる。安全にヒヤリハットを何度も試せるようにした感じだ」(蛯原部長)。