量子コンピュータにカネとヒトが猛烈に集まり始めている。量子コンピュータが実用的な性能を発揮する「Xデー」が迫っているとの期待が高まっているからだ。この熱狂に根拠はあるのか。ブームは本物なのか。そしてXデーはいつなのか。最新動向を検証する。
日本人が考案した理論に基づく「量子アニーリング方式」の量子コンピュータ。主流の研究者からは「量子ゲート方式」のようなスピードアップは不可能との批判も根強いが、そうした見方を覆す研究も登場している。量子アニーリング方式の最新動向をレポートする。
量子アニーリング方式のハードウエアはカナダのDウェーブシステムズ(D-Wave Systems)が2011年に商用化した。現在は米グーグル(Google)、NECの2社に加えて、米南カリフォルニア大学(USC)を中心とする研究グループがそれぞれ独自ハードウエアの開発を進めている。
国名 | 組織名 | 特徴 |
---|---|---|
カナダ | Dウェーブシステムズ | 2011年に商用化。最新機種は2000量子ビットを搭載 |
米国 | グーグル | 8量子ビットのハードウエアを試作中 |
米国 | 南カリフォルニア大学など | 「non-Stoquastic」なハードウエアの実現を目指す |
日本 | NEC | 2023年までのハードウエア実現を目指す |
量子アニーリング方式は東京工業大学の西森秀稔教授と門脇正史氏が提唱した理論に基づいていることもあり、日本での知名度は高い。しかし、量子ゲート方式を本流と位置付ける研究者からは批判もされている。
まず量子ゲート方式の場合、「0」と「1」の両方が同時に存在する「量子ビット」のエラー訂正を実現した「万能量子コンピュータ」であれば、古典コンピュータ(現在のコンピュータ)を上回る性能が実現できると数学的に証明されている。それに対して量子アニーリング方式には、そうした証明が無かった。
様々な批判を覆そうとする量子アニーリング方式
グーグルなどは2015年12月にDウェーブのマシンを使うことで「パソコンに比べて1億倍高速に解ける問題があった」という研究成果を発表している。しかしこれに対しても批判がある。
グーグルの実験は、約1000個の変数がある組み合わせ最適化問題をDウェーブのマシンに解かせたところ、パソコンで「シミュレーテッドアニーリング(SA)」と「量子モンテカルロ法(QMC)」というアルゴリズムを使用して同じ問題を解いた場合に比べて、1億倍高速になったという内容だった。
ただグーグルが発表した論文には同時に、パソコンでSAやQMCではない別のアルゴリズムを使うと、同じ問題をDウェーブのマシンと同程度のスピードで解けたとある。さらに他の問題を高速に解けるとは限らない。「グーグルの実験は、Dウェーブのマシンで高速に解ける問題を見つけた点に意義があった」(東工大の西森教授)というレベルだ。Dウェーブのハードウエアの問題から性能が出ないとの批判もある。
ところが現在、量子アニーリング方式への批判を覆すような研究が次々と登場している。2018年6月末に米航空宇宙局(NASA)のシリコンバレー拠点「AMESリサーチセンター」で開催された量子アニーリング方式の学会「Adiabatic Quantum Computing Conference 2018(AQC-18)」での発表内容を基に、量子アニーリング方式の反撃をいくつか紹介しよう。