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鮫島正洋
鮫島正洋
内田・鮫島法律事務所 代表パートナー 弁護士・弁理士

 日本の産業構造はコングロマリット(複合企業)的である。大手電機メーカーが6社、大手自動車メーカーが5社、大手化学メーカーが8社というポートフォリオを有する国は恐らく日本だけであろう。これら大企業を技術面から下支えしているのが各技術分野にわたる中小企業群である。これら中小企業の中には、世界的に競争力を有する技術を保有しているが故に、海の向こうの超優良企業から全量の加工を受注する“猛者”もいる。このような、中小企業のポートフォリオが日本の競争力の重要な要素であり、他国にない特徴となっていることは論を待たない。だが同時に、このポートフォリオは“絶滅危惧種”ともなってしまった。

 統計で示そう。20世紀の終わりには485万社存在した中小企業は、15年後の2016年には25%減の359万社となっている(図1)。

図1●企業規模別企業数の推移
図1●企業規模別企業数の推移
(出所:「中小企業白書2019*1」より引用)
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*1 中小企業白書2019のPDFはhttps://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf。

 度重なる円高やリーマン・ショックなどの経済情勢の影響もあるといわれているが、少なくとも、その原因の一端は経営者の高齢化にあることは明らかである(図2)。

図2●年代別に見た中小企業の経営者年齢の分布
図2●年代別に見た中小企業の経営者年齢の分布
(出所:「2018年版中小企業白書*2」)
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*2 2018年版中小企業白書のPDFは https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H30/h30/html/b2_6_1_2.html。

 この20年間で経営者の年齢の最頻値は47歳から66歳となった。20年間で19歳上がったということは、この20年間のうち、ほとんど代替わりや若返りが生じていないという計算となる。40歳代と50歳代では経営権を譲る必要性を感じなかった現経営者も、60歳代や70歳代になると体力的な問題も生じてくる。10年はかかるといわれる事業承継を体力の限界を覚えてから始めていては間に合わない。さらに、事業承継を決意したとしても、後継者が不足していることが、事業承継を阻む本質的な問題であることに変わりはない。

 対象となる中小企業を買収し、株主となったホールディングカンパニーがその中小企業の運営やマネジメントを行う過程を通じて事業承継を行っていくことにより、中小企業の事業承継を進める手法も散見される。買収はある企業グループにおいて、シナジー効果を高める、売り上げ規模を拡張する、新規技術を導入する、といった目的で行うことが通常であった。

 このタイプの買収は、買収元である企業グループのメリットよりも、対象となる中小企業の事業承継を目的とした、公益的で内部統制にかなうものである。中小企業の事業承継を促進する手法として、新たな潮流を作り出す動きであるとして注目している。半面、この手法は、多額にわたる買収資金の調達が必要となり、ホールディングカンパニーの業績頼みであることが課題となるといわれている。