「自分のやりたいプロジェクト」を主催
そうすると、上記のような手法以外にも、事業承継を促進する方法論を講じる必要がある。経営者の高齢化が中小企業の減少の原因であり、承継者候補が存在しないことが社会課題であると定義すると、若くて優秀な人材を探すことが解決策である。現在、筆者は、自分に限界を設定することなく決めた「自分のやりたいプロジェクト」の進捗を数カ月に1回報告する自主的な勉強会*3を主催している。学生の時に優秀な成績を修め、いざ超優良企業に就職したものの、人生の行き場を失っている30歳代や40歳代の世代が多く参加する会に育っている。そういう若者の中には、東京での生活を諦めて、郷里に帰りたいと願う者も多いはずである。
*3 同プロジェクトのURLはhttps://wixtomo.wixsite.com/wixfam。
要するに、日本国というマクロ的な単位で考えると、後継者の候補人材は多く存在するのだが、都会に出てきた若者を自分の郷里の企業の後継者に育てるというルートが存在しないのではないか。そのルートを行政的な手法によって構築することにより、後継者問題について一石を投じることができるのではないかという仮説を立てている。
そのルートとは、以下のようなイメージとなろう。
- [1]民間のビジネススクールのような体裁でアントレプレナーシップ(企業家精神)や、経営者として事業を承継するというのがどういうことかという座学(このステップは都会で行ってもよい)を行う。
- [2][1]と並行し、受講生の希望地域において後継者を探している候補先企業とのマッチングを進めていく。
- [3][1]の座学終了後、候補先企業に派遣し、マッチングが成立すればやがて経営者に就任する。
このプロセス自体を「松下政経塾」や「グロービス」のようにブランド化し、自分の人生を切り拓く人たちが集まる前向きなコースであるとのイメージを定着させる。ゆくゆくは、同窓会的な催しを定期的に開催し、全国的な事業承継者ネットワークを構築してもよいかもしれない。
現在、ベンチャー企業を成長させることにより、100社の「ユニコーン」企業をつくり出す活動が経済産業省を中心として行われている。これはこれで日本の競争力を担保するための長期的な政策として重要であることは論を待たない。しかし、現在のファイナンス状況では難易度が高く、成功率が高くない割には、GDP(国内総生産)の維持や成長という観点での効果は疑問視されている。
中小企業の事業承継は、後継者の育成を行うことにより、もともと優良企業として事業展開していた地域の中小企業の事業継続性を担保するという手法であるから、成功率も高く、(特に当該地域に対する)経済効果も十分に期待できる。行政効率としては、ユニコーン企業を目指すベンチャー行政をはるかにしのぐ可能性があるのである。