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鮫島正洋=内田・鮫島法律事務所 代表パートナー 弁護士・弁理士
鮫島正洋=内田・鮫島法律事務所 代表パートナー 弁護士・弁理士

 「経営デザインシート」が今、ホットだ。これをテーマとしたイベントを内閣府が2019年2月28日に主催したところ、150人を超える聴衆が熱心に経営デザインシートにまつわる活用例に聞き入った。「経営デザインシート」は2018年度に開催された内閣府の委員会「知財のビジネス価値評価検討タスクフォース」の副産物である*1

*1 経営デザインシート ⾃社や事業の存在意義を明確に意識し、従来の価値創造メカニズムを把握する。その上で、将来ありたい価値創造メカニズムを構想し、そのために今から何を⾏うべきかの戦略を策定するための思考補助・デザインツール。ステークホルダーとの対話促進にも活用できる。内閣府が同タスクフォースの報告書を発行している。

 「副産物」と記載したのは、次のような経緯があるからだ。もともとこの委員会では「知財のビジネス価値評価」に主眼が置かれていた。ところが、委員会の後半になって「経営デザインシート」という概念が登場した。すると、多くの委員から指摘が上がった。「知財のビジネス価値評価も重要だが、より本質なのは、経営がどのようなメカニズムでどういう価値を生んでいくのかという分析を前提として、知財がそこにどのように寄与・貢献するかを明らかにすることなのではないか」と。こうして誕生したのが経営デザインシートなのだ*2

*2 こうした委員の声を拾って方向転換を敢行した住田孝之・知的財産戦略推進事務局長の英断、即時かつ適切な事務局スタッフの対応は、筆者の今までの委員会経験に照しても出色であった。

 そもそも、ものづくりを中心にコモディティー化(陳腐化)やレッドオーシャン化(競争の激化)が進む時代において、「良いものを安く作る」だけのビジネスモデルは破綻している。良いものを安く作る能力があることを前提に、競い合い、利益を上げるためのメカニズムが必要となっている。そのためには、そのメカニズムを実現するビジネスモデルに対する考え方を抜本的に変更しなければならない。このビジネスモデルの抜本的な変更を検討し、促すためのツールが経営デザインシートなのである。

 詳細は内閣府の「経営をデザインする」というタイトルのWebサイトに譲る*3。ここでは経営デザインシートの考え方の要諦を説明していこう(つまりは、「経営デザインシート入門編」を展開しようというのである)。

*3 URLはhttps://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keiei_design/index.html。

 まず、経営デザインシートの大きな枠組みを示す。図示するように、「企業理念/事業コンセプト」(A欄)が最上位に、その左下に「現在の価値創造メカニズム」(B欄)が位置する。また、B欄からの矢印に続き、最下部には「移行のための戦略」(C欄)、さらにそこから出る矢印は「これからの価値創造メカニズム」(D欄)に到達する。

 つまり、経営デザインシートは、不変かつ本質的な企業理念等の下に、収益源となっている現状の価値創造メカニズムを把握し、それがどのような環境の変化にさらされているか、どのような限界を迎えているかなどを分析した上で、より持続可能性のある価値創造メカニズムを創り出していくことを目的とするものである。

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