全1874文字
PR

 このコラムでは、これまで技術経営的な事柄を述べてきた。今回は実務に戻り、共同開発契約の論点に踏み込んでいく。共同開発契約の対象となる「本開発テーマ」の定義のあり方はいかにあるべきか。例えば、以下のような定義規定があるとする。

「本開発テーマ」とは、乙が保有するCTスキャン画像に対し、甲が有する機械学習のためのデータ前処理技術を適用し、もって、従来よりも精度の良い画像診断システムを構築する開発を意味し、より詳細には別紙1のものをいう。

 ①「本開発テーマ」の範囲が文言上、実際に行われる開発範囲よりも狭い場合(「本開発テーマ」<実際の開発範囲)と、②(①とは逆に)「本開発テーマ」の範囲が文言上、実際に行われる開発範囲よりも広すぎる場合(「本開発テーマ」>実際の開発範囲)、それぞれ生じる問題点はどうなるだろうか。

 ②の場合、実際の開発が「本開発テーマ」の範囲内で行われている限り(点A)においては問題がないが、「本開発テーマ」の範囲外となった場合(点B)、以下の問題が生じる。

 (1)「本共同開発の成果は、甲乙の共有とする」などの定めが設けられることが通常であるが、点Bの開発は、文言上、「本開発テーマ」の範囲外の成果となる。そこで、「本共同開発の成果」に該当しないとして、成果にかかる条項は適用されない(ので一方当事者の単独成果物である)との主張を許す。

 (2)(1)のような事態を防止するためには、共同開発の進捗とともに「本開発テーマ」の文言を修正することにより、実際の開発範囲と整合させることになるが、かなり煩雑である。

[画像のクリックで拡大表示]

 そこで、もともと「本開発テーマ」の定義を漠然かつ広汎(こうはん)に定め、実際の開発範囲は必ずその広汎な範囲内に収まるようにするという手法が考えられる(上記②のケース)。

 このようにすると、実際の開発が「本開発テーマ」の範囲内で行われている場合(点C)においてはともかく、本来、共同開発の趣旨との関係で、制約を受けないはずの開発テーマ(点D)にまで、広汎に規定されている共同開発契約の「本開発テーマ」という文言の範囲が及んでしまうということになる。