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鮫島の見解

 経団連の「本指針案で『問題となるおそれがある』と整理されている事例に関しては、必ずしも画一的に処理できるものではなく、当該取引全体の中で、スタートアップのリテラシーの程度、スタートアップと連携事業者の交渉状況、契約の背景などのさまざまな個別事情を考慮し、ケース・バイ・ケースで処理されるべきものである」とのコメントについては、筆者も同意見である。優越的地位の濫用(らんよう)の要件の1つである(1)優越的地位の存在については、特にスタートアップと事業会社が元請け・下請けのような継続的取引関係にないことを前提とする今回の指針においては判断が難しい。オープンイノベーションに対する萎縮効果を生じることがないように慎重な判断が求められる。

 さらに、(2)公正競争阻害性を有することという要件についても、もともと当該取引条件のみならず、それによって市場の競争環境がどのように影響を受けるかということを主眼とする要件であるため、個別性を本質とする。

 経営法友会の「本指針で例示されている事項(特に各種モデル契約書)はあくまで例示であり、例えばモデル契約書を利用しないことが、独占禁止法違反に繋(つな)がるなどという誤解が生まれないようにすること」という指摘も本質は同じであろう。モデル契約はあくまでも「モデル」とすべき契約であって、法規範の逸脱の存否を論じる際の基準として作られたものではない。そもそも模範となるべき契約書の条項は背景となるビジネス事情によって右にも左にも変動するものであり、モデル契約は、あくまでも設定された特定のビジネス事情下においてはそのような契約条項にもなり得る、ということを示したものにすぎない(故に、これまでのモデル契約と比較しても詳細なビジネス事情を定義した)。

 ちなみに、モデル契約の各条項について、事業会社側からはさまざまな意見があると聞いている。座長を拝命した筆者としては、それらの意見について、モデル契約作成の経緯や政策サイドの意図を含めて回答していくことがオープンイノベーションの進展につながると考えている。今後、オンライン/リアルによる公開討論などの方式で、広く議論を尽くしていきたい。