「IPランドスケープ」という言葉が聞かれるようになった。一体、どういう意味なのであろうか。多くの言葉の略語となっている「IP」だが、この場合はIntellectual Property、すなわち、知的財産を意味する。「ランドスケープ」とは、本来「景色・景観・風景」というような意味であり、「IP」と組み合わせた場合の意味は少々イメージしづらくなるが、「IPランドスケープ」とは、要は特許情報を駆使したビジネス分析のことをいう。
例えば、下記の図は「機能」と「素子」の組み合わせから成る各ドメインについて、何件の特許出願がなされているかを示す原始的なチャート(特許マップ)である。ここから何が分析できるだろうか。まず、一般論として次のことを意味する。
・特許出願が多い=多くの企業がそのドメインに開発投資している(故に、多くの発明が生まれて、その一部が特許出願されている)
従って、多くの特許出願がなされている「素子D」は、多くの企業によって開発投資をされている=業界ではマーケットが大きいと考えられている、という理屈が成立する。特許出願がほとんどなされていない「素子A」は「素子D」の逆、つまり、業界からは大きなマーケットであるとは思われていない、ということを意味する。
この事実からすると、多くの読者は「そうか、マーケットの大きい素子Dがこれから参入する市場としては有望なのだな」と判断するわけであるが、それは時として誤りである。なぜならば、特許出願が多い=今さら参入のため開発投資をしても強い特許を取ることができない、という別のことをも意味するからだ。いくら市場が魅力的だからといって、既に先行他社が多くの特許を取得している市場に、弱い特許しか持たずに参入する行為は一般には無謀と言えるだろう。
「素子A」への参入に関しては、上記のチャートから以下の分析ができる。
・「素子A」は、市場規模は大きくならないかもしれない(ニッチ市場)。
・しかし、特許も少ないから、今ならば基本特許を含めた強い特許が取れる。
・当社の事業戦略はもともと「ニッチトップ」狙い
=ニッチな「素子A」で強い特許を取得し、他社の参入を阻んでニッチトップになることが事業戦略に整合する
=「素子A」を新規投資分野とすべき。
こうしたビジネス分析が特許に係るチャートから可能となるのだが、なぜ、特許データベースからこのようなことができるのであろうか。それは、特許文書の性質論に由来する。