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鮫島正洋
鮫島正洋
内田・鮫島法律事務所 代表パートナー 弁護士・弁理士(イラスト:高松啓二)

 当職が座長を拝命している、「研究開発型スタートアップと事業会社のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書ver1.0」(経済産業省・特許庁)のAI(人工知能)編が2021年3月31日に公表された*1。2020年6月30日に公表された素材編の続編となる。素材編がものづくり業界をカバーする立て付けとなっているのに対し、AI編はITサービス業界をカバーすることを主眼としている。

*1 「研究開発型スタートアップと事業会社のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書ver1.0」を紹介するURLは以下の通り。
https://www.jpo.go.jp/support/general/open-innovation-portal/index.html

 AI編で登場するのは、スタートアップ企業(X社)と事業会社(Y社)である。X社は、人体の姿勢推定機能を有する学習済みモデルを保有する企業。Y社は、その学習済みモデルを自社が製造・販売する介護施設向け見守りシステムに応用したいと考える事業会社だ。介護施設では介護福祉士の不足や過重労働が問題となっている。そこでY社は、見守りシステムを介護施設における対象者の部屋や廊下に備え付けえようと考えている。転倒したり床に倒れていたりする対象者の危険な状態を自動的に判別できるとみているからだ。

 X社としても、開発した学習済みモデルが社会実装されてキャッシュフローを生むことは、事業成長やバリエーションアップという観点から望むところだ。加えて、より多くの学習用データを実地で集めることができ、学習済みモデルの検出精度の向上が可能となる。

 そこで、両社は[1]秘密保持契約(NDA)→[2]概念実証(PoC)→[3]共同研究開発という各契約を経て実用化へと進む、というのがAI編の基本的なストーリーとなる。Y社のために構築された見守りシステムは、X社のサーバー上で管理されるため、両社は同システムに関する[4]利用契約を締結する。今回、モデル契約として公表されたのは、上記[1]ないし[4]の契約である。