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鮫島正洋=内田・鮫島法律事務所 代表パートナー 弁護士・弁理士
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鮫島正洋=内田・鮫島法律事務所 代表パートナー 弁護士・弁理士

 大企業のオープンイノベーションに対する取り組みが顕著になってきた。言うまでもないが、ここでいうオープンイノベーションとは、単なる自前主義脱却という意味ではなく、中小・ベンチャー・大学の技術を大企業が採用するという意味でのオープンイノベーションである。この流れに応じて、多くの大企業から、「ベンチャー企業とオープンイノベーションをやりたいのだが、どのように進めたらいいか分からない」といった質問を受けることが多くなった。そうしたニーズに包括的に応えるのが、経済産業省が2019年4月に公表した「事業会社と研究開発型ベンチャー企業の連携のための手引き(第三版)」である(以下「手引き」。ちなみに筆者も初版の手引き作成に加わっていた)*1

* 「事業会社と研究開発型ベンチャー企業の連携のための手引き(第三版)」 経済産業省が2019年4月22日に発表。PDFの資料はhttps://www.meti.go.jp/policy/tech_promotion/venture/tebiki3.pdf

 会社組織内におけるオープンイノベーションの登場部署は、[1]マネジメント(ボードメンバー)を始めとして、[2]CVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)、[3]事業部/R&D、[4]知財法務部、などであるが、この手引きではそれぞれの部署について現状課題を示している。例えば、[1]のマネジメントについては、オープンイノベーションへの理解の不足、短期的成果を求める思考がオープンイノベーションを阻んでいることなどが問題視されている。

 別の報告では、日本の経営者は他国の経営者と比較して抜本改革を望まない傾向があるというデータが紹介されているが、オープンイノベーションが会社の方向性の抜本的な修正を含み得ることからすると、経営者への啓発が引き続き必要であるということだろう。

図●日本の経営者は他国の経営者と比較して抜本改革を望まない傾向がある
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図●日本の経営者は他国の経営者と比較して抜本改革を望まない傾向がある
(出所:KPMGグローバルCEO調査2018)

 そもそもベンチャーとのオープンイノベーションは、短期的成果にはつながらない。真のイノベーションを社会実装するには最低10年、産業化するには20年以上かかるというのが定説である。従って、オープンイノベーションを実現するためには、そのような長期間にわたってオープンイノベーションへの投資コストを回収できなくてもよい、という経営陣のコミットが本来必要なはずである。しかし、手引きでは2〜3年で成果が出ないことや景気が思わしくないことを理由にCVC自体を撤廃するなど、オープンイノベーションの本質を理解していないと思われる経営者の課題が浮き彫りにされている。