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推進計画は国家戦略そのもの

 既にお分かりのように、これは知財だけの問題ではなく、より多くの本質的な要素を含む。故に、知財関係者のみならず、日本の競争力に携わる方、それに関心を持つ方であれば読むべき内容となっていると冒頭に述べた。

 推進計画は、上記の抽象論に留まることなく、価値デザイン社会の実現に向けて、以下のステップが必要であると記述する。

「第一に、個々の主体が持つ、平均から外れた尖った潜在力、才能を解き放ち、開花させること。

第二に、そのような輝く才能がお互いに結びつき、融合して、新しいアイデアに至ること。 第三に、新しいアイデアが何等かの共感を得て、価値として実現すること」

そして、この第一ないし第三を実現する意義とその施策が以降、展開されるというのが推進計画の体裁となっている。ちなみに、筆者が多く論じてきたオープンイノベーションは、第二を実現するためのコア施策であるとされている。

 今回、オープンイノベーションの部分は割愛して、第一の部分について述べる。人材育成に密接に関わる部分であり、従来の推進計画では比較的手薄であったが、今回の推進計画は、この部分に多くの枚数を割いた。

 具体的には以下のような項目が列挙されている。

「中長期の方向性

①尖った才能を開花させる
②尖った人・企業がチャレンジしやすい環境を整備する。
③尖った人・企業をサポートする」

 この点については、以下の解説が理解しやすい。

 「需要に対して供給が不足していた時代には、同じものを大量に効率的に作り、そのための安定的な組織を確立することが重要であったため、さまざまな側面(軸)から平均的に能力があるような均質的な人材を社会が求め、家庭でも教育現場でも送り出そうとしてきた。そこでは、何らかの軸で、あるいはその軸を超えて特殊な才能を持っている人材や企業が活躍できる機会は少なかった。しかし、これからの価値デザイン社会において、新たな価値を生み出すきっかけを作れるのは、何らかの側面で、あるいは軸を超えて尖った才能を有する個々の主体であり、「脱平均」の発想で個々の主体の才能を解き放つことが鍵になる。そして、そのような主体が生息し、チャレンジしやすい環境を整備するとともに、実際に価値を実現していくために必要である」

 推進計画を起案した知的財産戦略本部は、内閣総理大臣を本部長とした組織である(知的財産基本法第27条)。つまり、推進計画の内容は単なる一部局、一担当者の想いではなく、国家戦略そのものなのである。また、内閣府は、各省庁を横断する横串組織であり、各省庁に具体的な計画を執行させる権限を有している。本稿では紹介しないが、現に、推進計画の後半ではどの省庁が何を政策として実行するか、というロードマップが事細かに示されている。つまり、推進計画は、これからの日本の発展や、社会の形成のあり方について国が論じたものであり、我々市民にとって、極めて重要な示唆を含む。各位、改めて一読願えればと考えている。