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鮫島正洋
鮫島正洋
内田・鮫島法律事務所 代表パートナー 弁護士・弁理士(イラスト:高松啓二)

 ICCサミットというベンチャー企業の大集会がある*1。正確には「Industry Co-Creationサミット」という名称なのだが、ベンチャー業界ではもっぱらICCと呼ばれている。内田・鮫島法律事務所はその趣旨に共感し、毎年スポンサーシップを継続してきた。筆者も2020年8月31日~9月2日にかけて行われた「ICCサミット KYOTO 2020」に参加した。

*1  ICCサミット KYOTO 2020 https://industry-co-creation.com/events/icc-kyoto-2020

 断っておくが、オンライン集会ではない。700人を超えるリアルな集会をこの時期に決行したのは、主催者の英断以外の何物でもない。我々昭和世代からすれば、ベンチャー集会というと、若い人が無鉄砲・無防備に集まって新型コロナウイルスの感染リスクをまき散らすようなイメージがあるかもしれないが、実態はそれとは真逆である。新型コロナ対策は極めて念入りに施されていた。何回かにわたって東京で開催された予備的な実験集会を経て、マスク+フェースシールドのダブル防御者以外は会場に立ち入り禁止とされた(フェースシールドは会場にて配布*2)。フェースシールドは毎日回収し、夜のうちにスタッフによって消毒作業が行われるという徹底ぶりだった。

*2  山本光学製「YF-800L」   https://www.yamamoto-kogaku.co.jp/safety/product/detail.php?pid=49

 全ての発表・発言はフェースシールド越しに行われたが、熱気は例年と少しも変わらない。当イベントの目玉となる「カタパルト」。この聞き慣れない言葉、もともとは「航空母艦などから航空機を射出するための機械」を意味するそうだが、ここでは、参加するスタートアップ企業によるビジネス・ショートプレゼンテーションのコンテストを意味する。自分たちのビジネスと思いをわずか7分間という時間に凝縮させて聴衆に訴えかけるのだ。彼らの熱意と事業推進力・プレゼン力を味わう時間は、まるで良質のショーを見ているようである。これだけ熱い人たちや思いがこの国にも存在することを多くの人に知ってほしい*3

*3  カタパルトの決勝戦「グランプリ・カタパルト」の様子はYouTubeで視聴できる。https://www.youtube.com/watch?v=WxzcTpY3kus

 筆者が審査員を務めた「リアルテック・カタパルト」は、生命工学や環境化学、電子工学など、さまざまな分野のハイテクを持つスタートアップ企業の集合体によるカタパルトである。「下町ロケット」さながらトラクターを隙間も重複もなく無人で走らせる技術を持つ会社や、3Dプリンターを民主化しようとしている会社など、今年はレベルが高く粒ぞろいの印象を受けた。

 こうした中で優勝したのは、浄水処理をコンパクトにまとめた装置を提供するWOTA(東京・文京区)という会社であった*4。水資源が豊かな日本にいると感じることはないが、人口爆発により水資源は世界的に枯渇しつつある。WOTAの装置を購入すれば、水道を敷くことなく飲料水が手に入るという。インフラ未整備の発展途上国にとっての福音となることであろう。もちろん、まだまだ課題は多い。しかし、多くの人が考える以上に日本発グローバルビジネスのネタは存在するのだ。

*4  WOTA https://wota.co.jp/

 翌日は「模倣・類似ビジネスとどう向き合うべきか?」というセッションでパネリストを務めた。議題となったのは、ベンチャービジネスを安易に追従する大企業の姿勢である。ただ、多くのパネリストが同意したように、大企業に追従されて廃業・撤退に追い込まれたベンチャーは極めて少ない。1つのビジネスを立ち上げるためには、そこに魂を入れる必要があるが、大企業による模倣は形だけの模倣であり、自らの魂をそこに入れることができない、というのが理由であろう。

 逆に、そこにイノベーションを立ち上げられないという、大企業の課題が見えるのである。同時に、スタートアップ企業からすれば、模倣により自らのコストで市場やサービスを喧伝(けんでん)してくれる存在の大企業はむしろありがたいのではないかという逆説的、かつ前向きな意見も聞かれた。

 しかし、そうだとすると模倣防止のツールである特許にどれほどコストをかけるべきか、という当職にとって耳の痛い論点が顕在化する。セッションはこの点にも及んだが、要するにビジネスによって模倣リスクはまちまちであるところ、それを適切に評価して、それに見合った適正コストをかけるべきだというのが結論となる。お客様をしてこの点を見極めるためのアドバイスこそが、我々スタートアップ企業系を扱う知財弁護士の仕事であると痛感した。