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 このように、強制実施権の発動にはさまざまな影響があることから、新型コロナと闘うために、民間ベースで自主的に特許を開放しようという動きが広まっている。「Open COVID Pledge」(オープン・コビッド・プレッジ)は米Facebook(フェイスブック)やAmazon.com(アマゾン・ドット・コム)、Intel(インテル)、IBM(アイ・ビー・エム)、Microsoft(マイクロソフト)などの米国企業が中心となって発足したスキームであり、「COVID-19と闘う」という用途に利用される限りにおいては、特許が無償でライセンスされる旨が宣言されている*4。IT企業が多いのであまり役に立たないのではないかという見方もあるが、同Webサイトに掲載されている特許の例を見ると、特効薬やワクチンそのものではないものの、これらの開発や、新型コロナ禍の社会に役立つような特許が掲載されている。

*4 https://opencovidpledge.org/licenses/

 例えば、Intelからは、新型コロナ禍においてはばかられる物理的接触を伴うテキストによるパスワード入力の代わりに、特定の形態を空中に描くこと(ジェスチャー)によって個人認証を行う仕組みに関する特許が提案されている*5。また、富士通からは医薬品を設計するための有効なツールとなり得るコンピューティング手法にかかる特許が提案されている*6

*5 「Gesture-Based Signature Authentication(ジェスチャーベースの署名認証)」。https://patents.google.com/patent/US20200128006A1
*6 「Method and device for searching binding site of target molecul(標的分子の結合部位を検索するための方法および装置)」。https://patents.google.com/patent/US20190179999A1

 日本企業も負けてはいない。2020年4月、民間企業により「知的財産に関する新型コロナウイルス感染症対策支援宣言」が出され、新型コロナの蔓延(まんえん)終結を唯一の目的とした行為について、知的財産権(特許権、実用新案権、意匠権、著作権)の権利行使を行わない旨を宣言した*7。10月1日時点で97社が保有する90万件を超える特許権が権利不行使の対象となっている。

 新型コロナについて、人類はこれまで防戦一方であったが、いよいよ反撃が始まろうとしている。知財の世界でもさまざまな論点が存在し、これに対する取り組みがなされているのである。

*7 「知的財産に関する新型コロナウイルス感染症対策支援宣言」。https://www.gckyoto.com/covid19