全3213文字
PR

ビジネス的視点で知財と法務をシームレスに融合

 さて、「ビジネス的な視点から知財と法務をシームレスに融合した法律業務」と定義される技術法務について少し語ろう。知財と法務は、求められる専門性が異なるため、我が国では、伝統的に異なる人材、異なる部署が担当してきた。しかし、本来、知財も法務も1つのビジネスの競争力を担保するための手段なのであるから、両者の統合性を考えると、1人の人間が担当することが理想である。例を示そう。

 今、あるベンチャー企業(顧客)が画期的な新素材に関する技術を保有しており、大企業と共同してエンジンバルブの開発を行うことになった。ここでまず気をつけるべきことは、「技術のコンタミ(コンタミネーション)」である。具体的にいえば、共同開発契約時に、ベンチャー企業が既に保有している技術(バックグランド技術)と、共同開発によって生み出される技術(フォアグランド技術)を峻別管理しなければならない。なぜならば、前者はベンチャー企業固有の技術であり、ベンチャー企業が単独で保有を主張できるはずのものだからである。しかし、現実は、技術管理が甘く、バックグランド技術であったはずの技術がフォアグランド技術だと主張され、対抗立証ができずに、やむなく大企業と共有となることが多い。このように、バックグランド技術とフォアグランド技術の峻別性がなくなってしまった状態を「技術のコンタミ」という。

 それでは、何をすべきだったのか。最も効率的なバックグランド技術の管理方法は、共同開発契約時までに特許出願をしてしまうことである。何をどの時点でどのように特許出願するか。これは純然たる知財業務である。

 特許出願が完了した後は、共同開発契約に記されるフォアグランド技術の知財帰属をどのような仕切りにするかが問われる。[1]全て共有、[2]発明者主義(誰が発明したかによって帰属を決める)、[3]新素材について汎用的な知見はベンチャー企業、エンジンバルブというアプリケーション固有の知見は大企業がそれぞれ単独で保有、といったいくつかの選択肢がある中で、どのような交渉を展開し、どういう条項表現とするか。これは法務の領域に属する。

 選択肢のいずれかで契約した後に、フォアグランド技術について、知財帰属条項に基づいて帰属を判断し、どのような特許出願をしていくのか。ここは知財業務と法務の複合となる。これらの業務を展開するためには、技術に対する深い理解が求められ、さらに、企業の競争力というビジネス的な尺度に裏付けられている必要がある。

ブルーオーシャンを航海中

 このように、法律業務において、(1)知財と法務がシームレスに融合され、(2)ビジネス的な視点に基づいて展開されることが、技術法務の本質であるが、弊所ではこれらの業務を(筆者のオーソライズの下)1人の弁護士がこなしていく。事務所全体の方針として、このスタイルを採用する法律事務所は、筆者の知る限り他に存在しない。技術法務の認知度が高まり、その重要性が認められた結果、マーケットは徐々に拡大しつつあるが、いまだに本格参入はなく、我々はブルーオーシャンを滑るように航海している。

 今回の受賞は1つの区切りであり、これからがスタートだと感じる。未曾有の大転換期にある日本の復活が本格的に始まる中で、日本の近代史を振り返ったときに、「あの法律事務所があったから、日本の競争力は復活した」と評価されるべく、引き続き邁進していきたい。