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鮫島正洋=内田・鮫島法律事務所 代表パートナー 弁護士・弁理士
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鮫島正洋=内田・鮫島法律事務所 代表パートナー 弁護士・弁理士

 会社は誰のものか。よく言われるフレーズであるが、その定説は「株主」となっている。そして、「会社は株主のもの」という定説は、現在の日本国会社法とも整合する結論である。

 他方、ミリ秒単位のような極めて短い時間に、コンピューターで自動的な株のやり取りを実施するシステムを使った、高速取り引き(High Speed Trading、HST)という手法が盛んになっている。このような形態の取り引きを前提とすると、観念的には「会社は株主のもの」というには抵抗感が生じる。なぜかというと、「誰のもの」(オーナー)の中には、それによって利害を得るのは誰かというニュアンスのみならず、誰が責任と愛着を持って会社に対峙するのか、というニュアンスも含まれるはずだからである。後者を強調する限り、少なくともHSTによるミリ秒単位の株主は会社のオーナーであるとは言い難い。

 20世紀型資本主義の弊害は至る所に現れ始めた。四半期決算など、極めて短期の経営的成果を求めるために、イノベーションを持続するために必要な研究開発投資がしにくくなっているという。技術立国日本という観点からは由々しき事態である。

 そのような状況の中で、「公益資本主義」という概念が台頭し始めている。もともとはシリコンバレーで活躍する投資家の原丈人氏によって提唱された概念であり、旧来型の利益を求める経済を利用しながらも、社会にとって有用な企業を生み出す流れを起こしていく経済システムを立ち上げようとする運動である。「会社は株主のもの」と捉えれば捉えるほど、資本主義社会は投機的な色彩を帯び貧富の差が拡大する、と公益資本主義は説いている。そこで、株主のみならず、従業員・顧客・社会・市民など多様なセクターをステークホルダーとして捉え、これらのステークホルダーに対する総合的な価値を最大化する経営を是とするのが公益資本主義の立場である。公益資本主義の下では、短期の経営的成果はこれらのステークホルダーに対してもたらす総合的な価値に劣後するため、持続的イノベーションのための投資は許される。なぜかというと、持続的イノベーションは、十年以上のスパンではあるが、社会を進歩発展させ、そこに総合的な価値をもたらすからである。

 国連から発表されて3年あまりが経過した持続可能な開発目標(SDGs)も同じ系譜の思想を貫いているように思われる。SDGsは、「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現のため、2030年を年限として17の国際目標を定めたものであり、これらの国際目標のうちの多くは以下の通り、短期の経営的成果とは結び付きにくい。