
2020年11月30日に「スタートアップの取引慣行に関する実態調査報告書」と題する報告書が公正取引委員会(以下、公取)から発表された*。言うまでもなく、スタートアップ企業(以下、スタートアップ)と事業会社(大企業を想定)とがオープンイノベーションを行うに当たり、後者から受けたさまざまな不利益行為に関する報告書である。
この報告書の特徴はいくつかある。
[1]第2章に「スタートアップ概要」という項目が設けられており、スタートアップの特徴(革新的なビジネスモデルを社会実装するなど)や、収益推移(当初数年間は赤字からスタートするなど)、進捗(シード、アーリー、レイターなど)のみならず、ベンチャーキャピタル(VC)の投資環境など、日本のスタートアップに関する入門書的な記述がある。コンパクトにまとめられており、スタートアップとの取引を想定する方はぜひとも一読願いたい部分である。
[2]これまでの公取による報告は、スタートアップと事業会社との関係に関する実態調査のみを報告したものだった。これに対し、今回は投資家との関係に関する実態調査の結果も報じられている。投資家についても「優越的地位の濫用(らんよう)」の法理が当てはめられる可能性が示唆されている。対象となる行為としては、投資家による著しく一方的かつ不利益な要求の他、株式買い取り請求権もテーマに上がっていることに注意する必要がある。
[3]優越的地位の濫用の法理は、伝統的には、元請け・下請けの関係にあるような大企業・中小企業間における継続的な取引の存在を前提としてきた。ところが、一般にスタートアップと事業会社の間においてこうした前提が存在するケースは珍しく、むしろ何らかの継続的な取引を目指す過程において一方的かつ不利益な要求がなされる場合が多い。公取は以下のように述べて、こうした場合でも優越的地位の濫用性を認める方向を打ち出している(報告書の68ページ)。次の通りだ。
事業者(乙)が取引先である他の事業者(甲)との取引の継続が困難になることが事業経営上大きな支障を来すため、甲が乙にとって著しく不利益な要請等を行っても、乙がこれを受け入れざるを得ないような場合には、独占禁止法上、甲が乙に対して優越的地位にあると考えられ得る。
また、甲が乙に対して優越的地位にあるか否かの判断に当たっては、乙の甲に対する取引依存度、甲の市場における地位、乙にとっての取引先変更の可能性、その他甲と取引することの必要性を示す具体的事実が総合的に考慮される。