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 2016年7月、ポーラでは、史上初となるシワ改善医薬部外品の承認を取得。翌年1月より、薬用化粧品「リンクルショット メディカル セラム」(以下、リンクルショット)として販売を開始した。それまでの抗シワ対策は美容医療や乾燥による小ジワを目立たなくする化粧品などに限られており、医薬部外品としてシワ改善を訴えられるものは存在しなかった。一般に医薬部外品新成分の開発には約10年を要するが、リンクルショットではその1.5倍となる15年の年月を費やし、ようやく製造販売の承認を得ることができた。

 この商品の開発にあたり、研究開発チームでは3つの壁を乗り越える必要があった。

 まず1つ目の壁は、シワの根本原因の解明である。シワの原因については既にいろいろな論文もあったが、私たちは「そもそもなぜシワができるのか」という基本に立ち返って研究を行った。

 ここではシワのある皮膚とない皮膚の違いを、マクロ・ミクロの両面から徹底的に比較した。その結果、白血球の一種である好中球がシワの生成にかかわっていることを突き止めた。血管の中に存在する好中球は、皮膚にキズができると集まってきて不要なコラーゲンなどを分解し、ダメージを受けた組織を元の状態に戻そうとする。ここではエラスターゼと呼ばれる分解酵素が働くが、この好中球エラスターゼが、シワの部分に数多く見つかったのだ。

 シワが生じている部分には、紫外線や表情などの圧力を受けてかすかな炎症が起きている。これをキズと勘違いした好中球がエラスターゼを出し、悪くなっていないコラーゲンなどを分解する。その結果、真皮成分が減少しシワが生じるというメカニズムを世界で初めて発見したのである。

 この研究結果を受けて、私たちは好中球エラスターゼの働きを阻害する素材を開発。4つのアミノ酸誘導体を合成した「NEI-L1(ニールワン)」と呼ばれる安全な素材を生み出すことに成功した。

立ち塞がる「壁」を次々と打破 発売と同時にヒット商品に

 こうしてニールワンの開発にこぎつけたものの、次に成分の安定処方化という2つ目の壁にぶつかった。ニールワンは水になじみやすい一方で、加水分解しやすいという特性を有する。医薬部外品の有効成分は、3年で10%以上分解されてはならないと定義されているが、ローションやミルクなどに使おうとすると、この「3年で10%」をクリアできない。国内の様々な専門家や研究機関にも相談してみたが、どこでも難しいという回答しか得られなかった。

 しかし、思わぬところからこの問題を解決するヒントが得られた。それは、たまたま立ち寄った喫茶店で出されたチョコミントアイスである。これを見た研究者が「水に溶けやすいのであれば、わざわざ水に溶かす必要はない。チョコチップをミントアイスに練り込むように、水を含まないクリームにニールワンを練り込めばよいのではないか」と気付いたのだ。この発見から一気に開発が加速し、ようやく厚生労働省への申請段階にまで至ることができた。

 そして最後の壁は、お客様に安心してお使いいただくための体制づくりだ。

 当時は医薬部外品の安全性が大きな問題になっており、リンクルショットの承認もなかなか進まない状況にあった。そこで、お客様の肌の状態やどのような製品をいつからお使いかを把握するため、ダイレクトセリング体制を活用。化粧品としては異例ともいえるほど大規模な体制で、安全性の確保に取り組んだ。こうした姿勢も認められ、ついにシワ改善医薬部外品の承認を得ることができた。

 長年にわたる苦労の甲斐があり、商品の売れ行きも非常に好調だ。発売初日にはカウンターに行列ができた。新規のお客様のリピート率も高く、現在も順調にセールスを伸ばし続けている。

長期的な価値創造に向けた破壊的イノベーションも

 リンクルショットの開発は、新たなカテゴリーを創造する挑戦だったが、今振り返ると「いま見えないものを見る」「常に前へ進むことを考える」「ねばり強く諦めない」「仲間を増やす努力をする」「市場での良い競争相手を持つ」の5点がポイントだったと感じている。

 真皮に作用する新しい薬用化粧品を作り出せた経験を基に、現在では皮下組織を含めた皮膚全層へのアプローチを展開中だ。たるみ改善などの難しいカテゴリーにも挑戦し、新たな化粧品の価値を創出していきたい。

 これと同時に、今後は長期的な価値創造に向けた破壊的イノベーションも必要と考えている。そこで、研究開発体制を一新し、ポーラ・オルビスホールディングス内にマルチプルインテリジェンスリサーチセンター(MIRC)と呼ぶ組織を設置した。MIRCはグループの研究統括機能に加え、世界中からの情報収集や最先端技術とのアライアンス機能を受け持つ。今後は最先端科学の深耕や新領域開拓を担うフロンティアリサーチセンターと連携し、グループ企業の価値向上に向けた取り組みを進めていく。

 これまでは「肌を知る」ことが研究の主な目的だった。しかし今後は自己(人間)を知る研究にシフトし、自己実現に向けてどのような価値提供ができるかを考えることが重要と考えている。現在はリンクルショットの開発を終えて、また新たな旅に出ようとする心境だ。これまでの枠に縛られることなく、また失敗を恐れることなく、新たな挑戦に挑んでいきたい。