PR

 安全でおいしい──。世界に誇る日本の「水」が危機に直面している。水道事業は低迷し、職員は減る一方。老朽化した水道管の交換も遅れている。早急に対策を打たないと日々の生活や企業活動に悪影響が生じる。高い品質を保ちつつ、必要な作業を効率化するにはどうすべきか。有力な対応策としてAIやIoTの活用に期待がかかっている。

 人手不足は水道水を作り出す浄水場も同じだ。「職員不足が続くなか、ベテランに頼らずに安定して施設の運転を続けられる仕組みが不可欠だった」。福岡県北部にある中間市の上水道担当者は唐戸浄水場におけるAIを活用した取り組みについてこう説明する。

 AIで構築したのは水処理に必要な薬品の注入量を推薦する「ガイダンスシステム」だ。ベテランの職員が知識や経験を基に決めていた薬品の量をシステムが自動で計算する。

 水道法は蛇口から出る水の塩素濃度を1リットル当たり0.1ミリグラム以上に保つよう定めている。浄水場は「凝集」「沈殿」「ろ過」「消毒」などの工程を担う。システムは濁りを集めて沈殿させる「凝集剤」と、水を消毒する「次亜塩素酸(塩素)」という2種類の薬品について最適な注入量をはじき出す。

 注入量を決める際は浄水場の計測器から得られる数十項目の指標を参考にする。例えば取水量や濁度、水温、pH(水素イオン指数)、アルカリ度などだ。従来はどの項目が予測に効いているかの分析が難しかった。

 設備に取り付けた通信機器で、これらのデータを数分おきにクラウドに送る。クラウドは機械学習による結果を基に予測モデルを構築。モデルを活用して最適な薬品の注入量を判断し、浄水場のタブレットに表示する。浄水場の職員はシステムの予測結果を参考に実際の注入量を決める。

 システムは2016年4月から利用している。開発を担当した安川電機によれば「予測誤差は現在数%程度。予測モデルは過去2年で5回ほど改良を重ね、予測精度を約10%高めた」(平林和也社会システム技術部新規システム技術課課長)という。

図 浄水場における薬品注入ガイダンスシステムの概要
図 浄水場における薬品注入ガイダンスシステムの概要
AIが適切な塩素量を提案(出所:安川電機の資料を基に日経コンピュータ作成)
[画像のクリックで拡大表示]

30~40分の監視が不要に

 ガイダンスシステムは機械学習のアルゴリズムとして、多数の決定木を使うランダムフォレストを採用している。過去数年分のデータを学習させて、季節による変化を取り込めるようにした。「薬品が効果を発揮する時間を考慮して時系列データも学習させた。計測器のノイズを取り除く工夫も凝らした」と安川電機の平林氏は説明する。

 システムの導入により、水道法に準拠しながら作業を効率化できたという。従来は薬品の投入により想定した効果が得られるかを確認するため、薬品の投入後に監視を続ける必要があったがシステムの導入後は不要になった。「システムの予測精度が高く、最終的な結果を確認すれば済む」(中間市担当者)からだ。次亜塩素酸の場合、結果が出るまで30~40分かかる。担当者はその時間を他の仕事に使える。

 唐戸浄水場には現在、市の職員3人が勤務しており、夜間や休祝日は外部の企業に業務を委託している。「誰が来てもスムーズに仕事ができるよう、業務の標準化が重要だ」(中間市担当者)といい、システムの役割は大きい。