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「逃げ地図」で地域の危険を可視化

 防災計画の立案で、建築実務者が関わる分野はあるか。日建設計はボランティア部の有志が集まり、地域防災に助言する取り組みを実施している。「逃げ地図ワークショップ」と呼ばれる防災教育は、白地図の道路に色を塗って、感覚的に避難経路や避難に用する時間を学ぶ手法だ。

逃げ地図を作成する様子。高齢者が傾斜度10度の坂道を歩く速さ(分速43m)を想定し、誰もが逃げることのできる防災地図をつくる。建築実務者はワークショップの際の助言者となる(写真:日建設計)
逃げ地図を作成する様子。高齢者が傾斜度10度の坂道を歩く速さ(分速43m)を想定し、誰もが逃げることのできる防災地図をつくる。建築実務者はワークショップの際の助言者となる(写真:日建設計)
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 地域住民がコミュニケーションを取りながら逃げ地図を完成させる。過去の災害を調べたり、避難場所を確認したりなど、作成の過程で防災情報を共有できる仕組みだ。完成した逃げ地図を基に発表会や勉強会を定期的に実施。逃げ地図に沿って歩いてみることで、実際の避難路を改善する。高齢者が登れない急斜面に、地域で費用を出し合って避難階段を設けた例もある。

 逃げ地図は東日本大震災がきっかけとなって始まった。立ち上げに関わった設計部門の羽鳥達也設計部長は、「地震の被害を目の当たりにして、設計者に何ができるかを社内で議論した。延べ面積10万m2以上の大きなオフィスビルでは、施設を利用する数千人の避難計画を考える。ある意味、小さな街よりも規模が大きい。高台を建物の避難出口に見立てれば、建築家が助言しながら街の避難安全検証ができるのではないかと考えた」と説明する。

日建設計の有志が作成した「逃げ地図づくり」のマニュアル。東日本大震災をきっかけに作成した。地域の防災教育のコミュニケーションツールとなり、作成の過程で過去の大規模災害や安全な避難経路を学ぶことができる(資料:日建設計)
日建設計の有志が作成した「逃げ地図づくり」のマニュアル。東日本大震災をきっかけに作成した。地域の防災教育のコミュニケーションツールとなり、作成の過程で過去の大規模災害や安全な避難経路を学ぶことができる(資料:日建設計)
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 ワークショップは巨大地震の発生が懸念される太平洋側の地域を中心に実施されている。羽鳥部長は地域の議論に加わって驚いたことがある。地元に詳しいはずの地域住民が「常識」と考える避難経路が、実は危険であると気付いていないことだ。

 羽鳥部長は神奈川県鎌倉市を例に挙げる。「津波が来たら海から離れるために『鶴岡八幡宮に向かって北上すればいい』との声が多かった。その避難経路では低平地をずっと逃げることになる。浸水域から逃れるには、海岸と平行に東西に動いた方が高台が近い」

 数字と記録を積み重ねて安全性を立証する建築実務者の能力は、街の防災を活性化する触媒として生かすことができる。