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香齋先生が最近手がけられた飾り大皿も、かなり手の込んだ作品ですね。

宮川香齋 これは、葛飾北斎の浮世絵、富嶽三十六景の中の「神奈川沖浪裏」を題材にしてみたものです。昨今増えてきた海外の方からのご要望にもお応えしていこうと考えて作ってみました。

前田 分かります。仰る通り、海外ですごく人気が出そうですね。

宮川香齋 ありがとうございます。

六代宮川香齋作 染付交趾 飾大皿 葛飾北斎 富岳三十六景 神奈川沖浪裏
六代宮川香齋作 染付交趾 飾大皿 葛飾北斎 富岳三十六景 神奈川沖浪裏
(撮影:栗原克己)

宮川真一 交趾(こうち)と染付という技術を用いた作品です。先ほどお話しした香山の作品じゃないですけれど、SNSにこの写真をアップすると、とても反応がいいですね。最近は、日本人でも海外の方に近い感性を持っているような方も多いですし。

前田 よく分かります。

宮川真一 もちろん、褒めていただけることはうれしいですよ、ただちょっと悩ましくもあるんです。この仕事が、本当に自分がやりたいことなのか、とか。

前田 この作品に込められた悩み、分かるなあ。

宮川真一 分かっていただけますか(笑)。

茶道や伝統工芸に小さい頃から接してきて、日本文化の深いところまで知っている人とそうではない人とでは、求めるものが違うのは当たり前。だから、「やりたいこと」と「やるべきこと」はいつも同じじゃない。グローバルにやろうとすればなおさら。分野は違っても、仕事をしている人ならほとんどの人が感じることじゃないですか。

 

前田 すごく分かる。オレだって、それで心が折れそうになることあるもん。

前田でもそうなんだ。安心した(笑)

前田 マツダは輸出の割合が大きいから。仕事にもよるけど、自分が好きか嫌いかより、海外の顧客に受け入れられるかどうかの方がはるかに重要ということは当然ある。

そんな「立派な社会人」みたいなこと言いつつ、やりたいことはキッチリやっている気はするけど。「引き算のデザイン」とか。

前田 日本の伝統工芸と少し違うなと思うのは、そもそもクルマは欧州発祥のもので、欧州の「クルマ好き」は、クルマのことをすごくよく分かっているということ。例えば、クルマのデザインで、タイヤの位置などの「基本」が確固たるものかを一瞬で見抜くんだ。そんな彼らに評価してもらえるようにするには、クルマづくりの基礎を彼らのレベルに持ち上げることが必要。そのうえで「日本らしさ」をどう感じさせられるか。そうであれば、あれもこれもと「足していく」デザインでは本質がぼやけてしまい、逆効果でしかなくなる。だから「引き算」なんだ。僕は、極限まで引いていくことで現れる本質的な「何か」を見つけ出したい。具体的には、車のフォルムを「光」で表現したいんです。一瞬の光のリフレクションで、思わずドキッとさせる強さや激しさが現れる。そんな内に秘めた「美」は、日本独自のものではないかな、と思っているんです。

(画像提供:マツダ)
(画像提供:マツダ)

宮川真一 日本文化の「奥ゆかしさ」をクルマで表現されようとしているんですね。

前田 はい。日本の「美」を元々欧州で生まれたクルマに宿らせることが僕の仕事だと思っているんです。根底には、この100年で日本の自動車産業が打ち出せた「日本らしさ」とは、実は「安くて壊れないこと」しかなかったのでは、という思いがあります。もちろん日本車が世界中で走っている現状を作り出した先人たちには、深い敬意を払っています。ただ、日本らしい「様式」や「美しさ」は打ち出すことができなかった。そこが工芸品と圧倒的に違うところでしょうし、カーデザイナーの一人として責任を感じています。

 かつての日本車の「安くて壊れない」が、新興国の自動車メーカーの特徴になりつつある今、国が力を入れているのが「自動運転」と「カーシェアリング」です。でも、車が自動で走る共有物になってしまえば、クルマ離れはますます進んでしまうし、「日本らしさ」も打ち出しにくくなってしまう。僕は、デザインを通して「乗る楽しさ」や「所有する喜び」を追求していきたいと思っているのです。