個々の顧客が望む製品を量産並みのコストで造る
たとえ少量でも日本で業務用エアコンを造って日本市場に供給するという意義はもちろんある。そして、それを担ってきた1963年に設立の金岡工場(堺市)が老朽化している上、同工場の周囲が住宅地になっていて立て替えが難しかったという事情はある。だが、単に旧工場の老朽化対策という理由だけでは、今後日本市場が縮小する中で投資に見合う十分な利益を得られる可能性は少ない。
ダイキン工業が日本に新工場を造ったのは、IoT(Internet of Things)や人工知能(AI)などの新技術を前提とするインダストリー4.0時代を生き延びるためだ。ここで同社が注目したのが、生産面においてマスカスタマイゼーション(以下、マスカスタマイズ生産)に対応すること。マスカスタマイズ生産とは、個々の顧客のニーズに応じた多種多様な製品を、大量生産並みのコストに抑えて造ることだ。それを可能とした最新鋭の工場が、この新工場なのである。ただし、現時点では新工場で実現したのはマスカスタマイゼーションを支える生産部分(マスカスタマイズ生産)のみ。顧客からニーズを聞き出して注文を受けて工場側に伝える上流部分のシステム開発は今後の課題となっている。
この新工場において、ダイキン工業は顧客が望む通りの仕様のエアコン、例えば冷暖房能力や塩害対策の有無などを個々の顧客のニーズに応じて変えたエアコンを提供することで製品の付加価値を高め、競合企業に差を付けることを狙っているのだ。従来の工場でも1個ずつ異なる仕様のエアコンを造ることはできる。だが、先端の生産技術やIoTを使わなければ柔軟性やスピード、コストの点でマスカスタマイズ生産を実現することは難しい。
ダイキン工業にとって、これからも日本は最先端技術を生み出す世界の拠点。インダストリー4.0時代に必須と言われるマスカスタマイゼーションを可能とする工場を日本で先駆けて造り、世界に対するマザー工場の地位を維持する。同時に、マスカスタマイズ生産に必要な最新の生産技術とIoTの開発や使いこなしを通じて、人づくりを行う。先端技術と現場で格闘することでしか、技術系人材は育たないからだ。これらが、縮小する日本市場にダイキン工業が新工場を造った本当の理由である。
では、新工場はどのような生産技術とIoTで構成されているのか。その全貌を次回以降明らかにしていこう。