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 めざましい成長を見せるインドの空調市場。その旺盛な需要を満たすには、ニーズに合わせた量の製品をしっかりと生産しなければならない。もちろん、品質の確保は絶対条件だ。だが、インドのような新興国には工場勤務経験の浅い作業者が多く、日本の工場とは違って熟練者による高度な労働力は期待できない。ダイキン工業の「モジュールライン」はこの問題を解消する。インド工場はこのモジュールラインで構築した最新工場だ。

 新興国の工場の重要性が日本メーカーの中で増している。成長余力が大きいからだ。その半面、課題もある。日本の工場の従来の造り方をそのまま移植しても、うまくいくとは限らないことである。日本の工場には熟練者を代表に、経験豊富な作業者や指導者が多い。ところが、新興国にそれを期待することは難しい。工場勤務に不慣れであるどころか、そもそも働いたことがないという作業者もたくさんいるからだ。

 ダイキン工業も同じ課題を抱えている。この課題を解決するために、同社が新興国の工場で展開しているのが「モジュールライン」である。モジュールラインについては、生産の立ち上がりが早くて増産対応に優れることを既に述べた。実はそれだけではなく、シンプルであることから非熟練者でも作業でき、品質も確保できるという特徴も備えている。現地の労働者の熟練度の水準に合わせて「誰でも造れるライン」がモジュールラインなのだ。加えて、このモジュールラインをベースにIoT(Internet of Things)も導入している。そうした最新の工場の1つが、インド工場(ニムラナ第2工場)の家庭用エアコンの生産ラインなのである。

部品の間違いや欠品を防げる理由

 インド工場の家庭用エアコンの室外機を見ると、次の10工程で構成された生産ラインになっている。[1]部品配膳工程、[2]第1組立工程、[3]機密検査工程、[4]リークテスト工程、[5]真空引き工程、[6]冷媒充填工程、[7]第2組立工程、[8]運転検査工程、[9]最終リークテスト工程、[10]梱包・出荷工程、である。では、誰でも簡単に作業でき、きちんと品質を確保できる仕組みを見ていこう。

* 家庭用エアコンの生産ラインは室外機と室内機に分かれている。インド工場では室外機の生産ラインと室内機の生産ラインが並行して配置されている。ここでは室外機の生産ラインを取り上げる。

図1 部品の配膳
図1 部品の配膳
1個流し生産に合わせ、1台ずつ違う仕様・製品の部品をそろえる必要がある。一見同じように見える部品でも、細かい仕様が異なっている。(写真:日経 xTECH)
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 まず、[1]の部品配膳工程は、その名の通り、室外機の組み立てに必要な部品を準備する工程だ(図1)。ダイキン工業の生産ラインは、異なる種類・仕様の製品を1台ずつ造り分ける「1個流し生産」が基本だ。そのため、1台ずつ異なる種類・仕様の部品をミスなく取り分けて用意しなければならない。そのために利用するのが、生産指示カードだ(図2)。

図2 生産指示カード
図2 生産指示カード
右下にあるQRコードに機種名や使用部品などの情報が入っており、リーダーで読み取ることで室外機1台ごとに必要な部品をピックアップできるようにしている。(写真:日経 xTECH)
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 生産指示カードには、機種名(管理番号)と使用部品、冷媒の種類が記載されている。これらの情報を作業者はQRコードから読み取る。リーダーをQRコードに当てると、ピックアップすべき部品の棚のランプが点灯し、作業者はそこから部品を取り上げる(図3)。大物部品である圧縮機には部品側にもQRコードが付いており、生産指示カードを読み取った後でリーダーを圧縮機のQRコードに当てると、正しい圧縮機を選んだ場合に「OK」という音声が流れるようになっている(図4)。この仕組みのため、生産ラインには種類の異なるインバーター搭載機と非搭載機も混ざって流れている。

図3 部品棚からの部品の選定
図3 部品棚からの部品の選定
部品棚でランプが点灯した箇所にある部品をピックアップするだけで正しい部品を選べる仕組みとなっている。(写真:日経 xTECH)
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図4 圧縮機の確認
図4 圧縮機の確認
圧縮機に貼っているQRコードにリーダーを当てると、正しい種類の圧縮機を選んだ場合は「OK」という音声が流れて知らせる。「NG」であれば取り替えることになる。(写真:日経 xTECH)
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