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日経BP 総合研究所は、林野庁の令和4年度(2022年度)補助事業における中高層・中大規模木造建築物の設計・施工者育成推進のための提案として、木造建築に取り組む実務者に向けて情報を発信している。今後の木造化・木質化を後押しするESG(環境・社会・企業統治)投融資の潮流を、CSRデザイン環境投資顧問代表取締役社長の堀江隆一氏に聞いた。

CSRデザイン環境投資顧問代表取締役社長の堀江隆一氏(写真:大久保惠造)
CSRデザイン環境投資顧問代表取締役社長の堀江隆一氏(写真:大久保惠造)

ESG投融資の流れが加速する中、建築物の木造化・木質化がいっそう進んでいきそうです。まずは、ESG投融資がなぜ国内で近年話題になってきたのか、という点から教えてください。

 注目を浴びたきっかけは、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は2015年9月、国連がサポートする責任投資原則(PRI)に署名したことです。投資分析や意思決定のプロセスにESG課題を組み込むことでリスク管理を図り、持続可能で長期的な収益を上げられる投資を追求しようとする機運が高まりました。世界の署名機関数は2015年の1097から右肩上がりに増え、2022年には5176に達しています。

 一方、ESG融資は、国連と金融業界のイニシアチブから責任銀行原則(PRB)が2019年9月に誕生し、その流れが推し進められました。このPRBは、SDGs(持続可能な開発目標)やパリ協定の達成に向け、ポジティブ面とネガティブ面の両方のインパクトを評価・管理・開示していくことを、銀行業務を通じて求めるものです。2022年11月現在、国内外で約300の銀行などが署名済みです。国内では数はまだ少ないものの、メガバンクや信託銀行に加え地方銀行も署名するようになってきたため、ESG融資の波は地方の中小企業にまで及びそうです。

ESG配慮の一環として、脱炭素(ネットゼロ)への取り組みも問われます。この問題はどのように認識されていますか。

 気候変動リスクは財務リスクという認識を持つべきです。パリ協定では世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べセ氏2度より十分低く保つという「2℃目標」が示されました。その目標達成には、埋蔵されている化石燃料の3分の2は燃やすことができないという試算結果を国際エネルギー機関(IEA)が公表しています。いわゆる価値が大きく毀損する「座礁資産」の問題です。この問題は、投融資側が潜在的に巨大な損失を被る恐れを示唆しています。気候変動リスクは、こうした観点から財務リスクと認識すべきなのです。

 20カ国・地域(G20)からの要請を受け、各国の中央銀行などで構成する金融安定理事会が設立した気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は、気候変動のリスクと機会の長期的な財務的影響について金融機関などは説明すべきだという考え方に立ち、2017年6月に最終報告書の中で情報開示の枠組みを公表しました。そこでは例えば、スコープ1、同2に該当する場合はスコープ3の温暖化ガス(GHG)排出量を開示することを求めています。

 なお、スコープ1とは事業者自らによる直接的なGHG排出量を、スコープ2とは他者から供給された電気や熱などの使用に伴う間接的なGHG排出量を、スコープ3とはサプライチェーンの上流と下流で発生するGHG排出量を指します。