設計事務所や建設会社も例外ではない
そうした背景の下、建築物の設計・施工にあたる設計事務所や建設会社も、脱炭素への取り組みが欠かせなくなるということですか。
そうです。2つの理由が考えられます。1つは、大企業がスコープ3のGHG排出量を開示するため、サプライヤーに対してまずはスコープ1、2のGHG排出量を開示するよう求める動きが加速すると考えられるからです。もう1つ、金融機関が投融資先のGHG排出量を把握する動きが出てくるためでもあります。GHG排出量の算定手法を開発する金融機関の国際組織「PCAF」には世界300以上の金融機関が加盟し、その中には国内のメガバンクや大手保険会社など20社以上が含まれています。地方銀行の加盟も相次いでおり、金融機関が投融資先に対してGHG排出量の開示を求める動きは、中小企業にも広まっていきそうです。
話題をESG投資に戻します。ESGへの配慮は、不動産の世界でも投資の考え方としてすでに浸透しているのですか。
はい。不動産セクターのESG配慮を年次で計測するベンチマーク評価として「GRESB(グレスビー)」という仕組みが、PRIを主導した欧州の主要年金基金グループを中心に早くも2009年に創設されました。ESG配慮は長期的な株主価値の向上に寄与するという考え方の下、投資判断や投資先との対話に活用されています。評価対象は、個別の不動産ではなく、投資法人や不動産会社など不動産に投資する組織とそのポートフォリオです。2022年の評価では、参加機関数は世界で1820、日本で122と、いずれも前年比10%以上の伸びを見せました。
GRESBでは木材利用に関する設問も用意しています。「建築資材の環境・健康に関する属性情報(の開示)を求めていますか」「資材の特徴に関する仕様を定めていますか」というものです。「資材の特徴に関する仕様」とは具体的には、「地場(国産)で採取または回収された資材」「カーボン・フットプリントの小さい資材(製造・輸送時なども含む)」「リサイクルが容易な材料や包装」「短期間で再生可能な資材やリサイクル含有資材」「第三者に認証された木材や木製品、利用した第三者認証の種類」といった内容です。
木材利用には環境面以外にも、例えば入居者の健康や快適性の向上というメリットも見込まれます。GRESBではそれらのメリットについても、「入居者の健康・快適性に貢献するデザイン的な特徴」や「バイオフィリック(自然共生)デザイン」という視点から問う設問を用意しています。