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木材利用の普及に向け効果をまず可視化

木造化・木質化の推進に向け、ESG投資の観点からは何が求められますか。

 何より必要なのは、木材利用の効果をまず「見える化」し、それを不動産価値の向上につなげていくことです。それには、3つのアプローチが考えられます。

 最初に、いわゆるグリーンビルディング認証の利用です。例えば日本政策投資銀行(DBJ)が制度を総括する「DBJ Green Building認証」は2021年8月、国内不動産の環境認証制度として初めて、木材利用を評価する仕組みを取り入れました。加点要素には、①単位面積当たりの木材利用量が一定の値以上②木質材料の活用によって断熱性向上に寄与している③木造建物の長寿命化に向けた維持保全の取り組みを実施──などを挙げています。

 次に、二酸化炭素(CO2)排出量の数値化を通じた可視化です。そこでは、建築物の運用段階だけでなく、資材段階、建設段階、解体段階などライフサイクル全体の排出量まで視野に入れる「エンボディードカーボン」の考え方が重要です。このエンボディードカーボンをどう数値化するかという課題については、一般財団法人住宅・建築SDGs推進センター(IBECs)が事務局を務めるゼロカーボンビル推進会議で目下、検討中です。

 最後は、木材利用の良い影響、つまりポジティブなインパクトと、悪いと思われている影響、つまりネガティブなインパクトを、他の評価項目とともに総合評価し、可視化することです。ポジティブなインパクトには、CO2排出削減のほか、森林整備による生物多様性・生態系の保全、水害レジリエンス(強じん性)の向上、林業サプライチェーンの充実に伴う地域活性化、建物入居者の健康・ウェルビーイングの向上が挙げられます。一方、ネガティブなインパクトになり得る要素としては、耐火性や耐震性といった安全性が挙げられます。さらに輸入材の場合には、伐採時の人権侵害や強制労働といった人権問題も問われます。

 ESG投資はいま、リスクとリターンという従来の視点にさらに実社会へのインパクトを総合評価するという新しい視点も加えるようになっています。リスクやリターンに変わりがないなら、環境、社会、経済に、よりポジティブなインパクトをもたらす不動産開発に資金を振り向けるようになってきたのです。