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低い価値のままでは「座礁資産」に

ポジティブインパクト投資の普及に向け、どのような動きが見られますか。

 私も委員を務めた国土交通省の「ESG不動産投資のあり方検討会」では2019年7月に公表した中間とりまとめの中で、不動産へのESG投資の基本的な考え方として、リスク・リターンの2軸だけでなく、社会的なインパクトという3軸目も意識することをうたっています。ただ「環境(E)」「社会(S)」「企業統治(G)」のうち、とりわけ「社会(S)」については、評価項目は何か、KPI(成果指標)には何を置くべきか、まだ不明確です。そこで後継の「不動産分野の社会的課題に対応するESG投資促進検討会」では、2023年3月までに、「社会(S)」に関するインパクトを整理していく見通しです。

国土交通省の検討会が示した不動産における「S(社会)」分野へのインパクトのイメージ。不動産には持続可能な社会づくりやウェルビーイングの実現への貢献が期待される(資料:国土交通省「不動産分野の社会的課題に対応するESG投資促進検討会 中間とりまとめ」)
国土交通省の検討会が示した不動産における「S(社会)」分野へのインパクトのイメージ。不動産には持続可能な社会づくりやウェルビーイングの実現への貢献が期待される(資料:国土交通省「不動産分野の社会的課題に対応するESG投資促進検討会 中間とりまとめ」)
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ESG投資で社会的なインパクトも意識されるようになると、不動産価値の捉え方にも変化が生じると思います。将来、どのような変化が見込まれると考えていますか。

 将来、環境・社会インパクトでポジティブに評価される不動産が増え、不動産の価値は全体的にレベルアップしていくと考えられます。すると、「グリーンプレミアム」として高く評価される不動産は、ネットゼロや健康・ウェルビーイングなど総合的な項目の多くを満足するレベルの高い一部のものに限られるようになる一方で、「ブラウンディスカウント」として低い評価しか与えられない不動産は、これまで以上に広げていくとみられます。その一部は、取引不能な座礁資産になってしまうでしょう。こうした変化が、SDGsの目標年次やGHG排出削減の中間目標年次でもある2030年までには起きるのではないかとみています。

 こうした将来見通しの下、木材利用が環境・社会インパクトを高めていくことにどこまで貢献できるのか、社会に広く訴えていくべきだと思います。

不動産価値への環境・社会インパクトの反映イメージ。将来は、不動産全体として右方向にシフトすることから、低い価値のままでは取引不能な「座礁資産」化する恐れがある(資料:CSRデザイン環境投資顧問)
不動産価値への環境・社会インパクトの反映イメージ。将来は、不動産全体として右方向にシフトすることから、低い価値のままでは取引不能な「座礁資産」化する恐れがある(資料:CSRデザイン環境投資顧問)
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堀江隆一 CSRデザイン環境投資顧問代表取締役社長
堀江隆一 CSRデザイン環境投資顧問代表取締役社長
金融機関勤務を経てCSRデザイン環境投資顧問を設立。不動産投資運用へのESG組み込みに係る支援業務や、環境不動産・サステナブルファイナンスに関する調査業務を行う。国土交通省「ESG投資の普及促進に向けた勉強会」座長、「国連環境計画・金融イニシアティブ」不動産WG特別顧問などを歴任し、現在は「責任投資原則(PRI)」不動産アドバイザリー委員会メンバーなどを務める(写真:大久保惠造)