木材の調達先が問われる時代
次に「木造・木質化建築物市場の現状と成長に向けた課題・対応策」だ。ここでは市場の現状と成長に向けた課題・対応策を整理したうえで、技術的・法令的な面から、混構造を採用した木造建築物、とりわけ低層で大規模なものを中心に開発が拡大する可能性があると指摘する。
一方で、先に指摘したコスト増というボトルネックは完全には解消し切れないため、市場の成長を促すには木材利用による付加価値評価の環境整備を含め、収益性の向上が重要になる、とみる。また、既存ストックの改修による木質化という領域は、新築に比べて低コストのため取り組みやすく、テナント満足度の向上やウェルネス効果などが付加価値として得られる、と指摘する。
最後は「アセット別の今後の成長期待」である。ここでは、「中高層」「低層」といった規模の観点と、「オフィス」「住宅」「ホテル」「商業施設」「物流施設」「公共建築物」といった用途の観点から、それぞれの成長期待を整理している。さらにそれを踏まえたうえで、木造・木質化建築物市場の成長を促すには、ストック量が多い都心の「中高層」での増加が望ましい、と結論付ける。
そのためには、コスト削減に向けた努力だけでなく、テナントや金融機関などの意識の変化を通じたキャッシュフローの改善も欠かせない、とみる。都心のオフィスビルストック量に占める新築の割合はごく一部であることから、既存ストックの改修による木質化の推進が市場規模の拡大に大きく寄与する、という考え方も明確に打ち出している。
調査結果で見通すような木造・木質化建築物市場の成長に向けて建築実務者にこれまで以上に求められるのは、サプライチェーンへの目配りだ。DBJ Green Building認証で加点要素に加えられた木材利用では、クリーンウッド法に定める登録木材関連事業者から調達したものや、FSCやPEFCといった国際水準の認証を受けたものが求められているのが、その表れといえる。木材でさえあれば、また国産材でさえあればどのような材でも構わない、という時代ではないのである。
背景には、ESG投融資の機運が高まる中、「S」「G」への配慮が強く求められるようになってきた時代の流れがある。また「E」の観点からも、サプライチェーン全体で温暖化ガス(GHG)排出量の削減が求められるようになっており、建築主側でもサプライチェーンの上流や下流で生じる「スコープ3」のGHG排出量に目を向けなければならないという事情もある。
調査を担当した価値総合研究所不動産投資調査事業部副主任研究員の北川哲氏は、時代の流れをこう読む。「木造・木質化建築物市場の成長に向けた課題として、大規模建築物向けの木材サプライチェーンの構築がある。そこには、建築主にとってはコスト抑制という狙いもあるが、一方で建物のライフサイクル全体でのGHG排出量の削減効果への期待もある。例えばデベロッパーもスコープ3の観点から、GHG排出量の把握・削減のためにサプライチェーン全体に目配りし始めているため、合法性の観点も含めて、今後、木材の調達先に関心が集まることになっていくだろう」