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今、中大規模の木造建築が注目を浴びている。木造に取り組んでみようと考える設計者も少なくない。鉄筋コンクリート造や鉄骨造は、材料が工業製品で、これまでの経験やノウハウの蓄積も多い。だが、木造となると、材料としての特性や流通、構造としての強度や防耐火の考え方など、あまり知られていない面がある。木造建築ビギナーが覚えておくべき基礎知識を、東京大学生産技術研究所教授の腰原幹雄氏が解説する。

腰原 幹雄(こしはら みきお) 東京大学生産技術研究所教授
腰原 幹雄(こしはら みきお) 東京大学生産技術研究所教授
1968年千葉県生まれ、東京大学大学院博士課程修了、博士(工学)。構造設計集団<SDG>を経て、2012年 東京大学生産技術研究所・教授、NPO team Timberize 理事長。 著書に、「日本木造遺産」、「都市木造のヴィジョンと技術」、「感覚と電卓でつくる現代木造住宅ガイド」など。 構造の視点からさまざまな材料の可能性を追求中(写真:日経BP総研 社会インフララボ)
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まずは木造建築を取り巻く最新の状況を教えてください。

 木材は山で採られて流通するものであり、それを設計し、施工し、建築をつくります。つまり、山側の視点と、建築側の視点の2つで考える必要があります。

 山側で言えば、一般的に105mm角や120mm角の住宅用流通製材をつくって、流通させています。これが基本です。これを中大規模建築向けに、住宅用よりも断面の大きな120×240~270mmくらいの製材をつくることはできるでしょう。

 今困っているのは、木が大きく育っていて、住宅用流通製材よりも太い8寸、つまり240mm角くらいが取れる原木が多くなっていることです。最近の住宅では、そのような太い材があまり求められません。昔は大黒柱や牛梁など太い材を使うニーズはありましたが、今はそのような使い方をしなくなっています。

 こうした太い材を中大規模建築で使うといいと思います。しかし、現状では中大規模建築をつくる際には、住宅用流通製材の活用が推奨されているように感じます。こうなると、太い材の出番がなくなってしまいます。

 一方、住宅用流通製材よりも細い材、例えば間伐材なども扱いに困っています。75mm角くらいの小径材が取れます。こうした材は、今は家具くらいにしか使われていません。下手すれば、面倒な加工をせずに済むよう、チップにしてしまうことも多いです。

なるほど。山側には太い材となる原木がたくさんあるのに、それが建築側で使われないというミスマッチが生じているわけですね。

 そうです。

 B材(小曲がり材)に対して、根曲がり材や本当に曲がってしまっている材、枝分かれ材などはC材と呼ばれています。C材も昔は曲がったままで柱や梁にしていました。土壁だったので曲がった形のままの柱でもよかったのです。しかし、今は壁に面材を張るので、真っすぐにしなければなかなか使ってもらえません。

 かつては、小屋組みに使うマツ材は曲がっているのが普通でした。製材して真っすぐにするよりも、曲がったままで使うほうが適していると考えられていたからです。従来は山にあるいろいろな木について、場面に応じたいろいろな使い道があったのです。

 それが今では、小曲がり材はひき板(ラミナ)などにして、集成材、LVL(単板積層材)、CLT(直交集成板)、合板などに加工されます。樹種もスギやヒノキだけになってしまって、特に広葉樹は手に入りにくい。針葉樹でもマツなどは手に入りにくい。

 建築側には、山側に、どんな材があるのかを聞いてもらいたいです。そうすれば、太さ、曲がりの有無、樹種など、たくさんの材がある中で、最近はどれが売れるのか、売れないのかを山側が知ることができます。建築側も、どれが売れないで山側が困っているのかという状況を知ることができます。

 山側は、そうした情報を自ら発信して、流通をコントロールできるようになればいいですね。ただ、山側の状況は刻々と変わります。木は育っていきますし、伐採すれば在庫はなくなりますから。建築側のニーズもずっと同じだとは限りません。