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コストを抑えるには関係者の連携も

 建築工事費は鉄骨造でつくるのに比べ同等以下で済んだという。「建築主自ら扱う商材を自ら営むプレカット工場で加工するという特別な事情を割り引いたとしても、建築工事費は鉄骨造に比べ安い」(藤田氏)。

 藤田氏がその要因に挙げるのはやはり、プレカット工場の能力の範囲内で一般流通材を加工することを前提に躯体を設計できた点。そして、地元工務店への発注で材料費・材料加工費や建て方費用などを注文住宅並みに抑えることができた点だ。

 木材の調達に関しては、林野庁の補助事業である「JAS構造材利用拡大事業」を活用し、助成対象になる機械等級区分構造用製材やCLTの調達費の一部とした。「今回は機械等級区分構造用製材は集成材に比べると割高ではあったが、その分は助成金によって相殺することができた」(藤田氏)。

 さらに重要なのは、プレカット工場を営む建築主、木構造の分かる設計者、非住宅建築も手掛ける工務店――この3者の連携だったという。南部氏は「木造建築をただつくればいいという気持ちで進めていたら、コストを抑えることはできなかった。コストを抑えるために、この3者で打ち合わせを重ねてきたのがよかった」と指摘する。

 建築主が一般の事業法人であれば、連携を図るメンバーとして、建築主、設計者、施工者のほか、プレカット工場も加わることになる。大野建設で常務取締役を務める大野哲矢氏は「これらのメンバーでコミュニケーションを取れていないと、工期や人工が見込みを上回り、コストもかさむ。中大規模木造では情報共有が肝になる」と強調する。

 その担い手として期待されるのが、冒頭にも書いたように工務店である。

大野建設常務取締役の大野哲矢氏。全国工務店協会(JBN)では中大規模木造委員会副委員長としても活動している(写真:浅田 美浩)
大野建設常務取締役の大野哲矢氏。全国工務店協会(JBN)では中大規模木造委員会副委員長としても活動している(写真:浅田 美浩)

 藤田氏によれば、中大規模木造は大きく4つに分類できるという。「軸組」の(1)軸構造系と(2)壁構造系、「壁」の(3)枠組壁工法と(4)CLTパネル工法である。「軸組」の軸構造系とは大断面集成材を用いた工法を指す。この3階建て木造事務所は、「軸組」の壁構造系だ。

 「『軸組』では軸構造系が先行してきたが、ここ数年、トラスの技術が進展し耐力壁にも高倍率のものが登場してきたため、低層なら壁構造系で経済合理性の高い建築が実現可能になってきた」。藤田氏はそう解説する。

 まさにそれが、一般流通材を用いた在来軸組工法に耐力壁を組み合わせた建築だ。工務店は住宅の延長として、そこに新しい市場を見いだせるというのである。

 ただし、住宅を建てる技術・技能しか持たない工務店では力不足感が否めない。非住宅建築の施工実績も求められる。藤田氏は「トラスや空調設備・電気設備など、住宅とは異なる納まりが生じる箇所があるからだ」と理由を明かす。

 それは、工務店とも付き合いのある建築主自身、認めるところ。南部氏は「当社としては付き合いのある工務店に依頼したかった。ただ、非住宅建築に実績を持つ会社は多くはない。対応できなくはないだろうが、納まりは苦労したはずだ」と話す。

 先ほど紹介したJBNでは、中大規模木造への技術的な対応力を高める狙いで委員会活動を展開している。大野氏はその副委員長だ。「建築主からすると、中大規模木造の施工はどこに頼めばいいか分からない。そこで、都道府県に最低1社は技術的に対応できる工務店があるという状況を整えようと体制づくりに取り組んでいる」と話す。