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 日経BP 総合研究所 社会インフララボは、林野庁の2019年度補助事業において「CLT を含む低層非住宅と中大規模木造建築物の設計・施工者育成推進のための提案」検討委員会を組織し、木造建築に関心のある実務者に向けて情報を発信している。山形県白鷹町は、地元産材の活用に向けた基盤整備に公民連携で取り組んできた。16年度に地元企業が共同で乾燥施設を整備し、18年度に町が役場・公民館の木造複合施設を完成させた。

白鷹町まちづくり複合施設。左手が図書館・公民館ゾーン。右手奥にかけて役場が延びる。周囲にはぐるりと回廊を巡らせ、外装材にも地元産材のスギを用いる(写真:吉田 誠)
白鷹町まちづくり複合施設。左手が図書館・公民館ゾーン。右手奥にかけて役場が延びる。周囲にはぐるりと回廊を巡らせ、外装材にも地元産材のスギを用いる(写真:吉田 誠)
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 白鷹町まちづくり複合施設は、町内で最大規模の木造公共建築となる。役場庁舎と公民館・図書館で構成する。地上2階建て、延べ面積4500m2超。2019年5月、町のへそとも言える中心部、旧役場庁舎や旧中央公民館の建っていた場所のすぐ近くにオープンした。

 建物周囲には回廊が巡り、外装にも地元産材のスギが用いられている。内部は、玄関を入ると、右手に役場、左手に公民館・図書館という構成。その間を、平日は午後10時まで出入り可能な町民ラウンジがつなぐ。角材を束ねた太い柱、平角材を重ねた重ね梁、合板や木格子を用いた耐力壁が、在来軸組工法ながら広々した空間を生み出す。

 町長の佐藤誠七氏は「鉄筋コンクリート造の旧庁舎とは雰囲気が全く違い、今の庁舎は柔らかく、包まれるような温かさがあり、町民も喜んでいる」と、笑顔を見せる。役場庁舎・中央公民館の建て替えに木造を採用し、今では大満足の様子だ。

 建て替えの構想が浮上したのは12年度だ。東日本大震災を受けて耐震診断を実施したところ、昭和30~40年代に建設された役場庁舎と中央公民館の2棟は倒壊の危険が見込まれることが明らかになり、耐震化への対応を迫られた。

山形県白鷹町長の佐藤誠七氏。「緑の循環システム」を支える基盤施設である木材乾燥施設の活用に向け、首都圏をはじめ町外に㏚する必要性を唱える(写真:吉田 誠)
山形県白鷹町長の佐藤誠七氏。「緑の循環システム」を支える基盤施設である木材乾燥施設の活用に向け、首都圏をはじめ町外に㏚する必要性を唱える(写真:吉田 誠)

 当時は、旧建物と同じ鉄筋コンクリート造で建て替えることを想定していた。ところが、13年、14年と2度にわたって町を豪雨水害が襲ったのをきっかけに、その方針を大きく転換することを決めたのである。佐藤氏は次のように回想する。

 「川の上流からスギの大木が流されてくる。それが、町なかの車庫に突っ込む。なぜ、こんなことが起きるのか。後日、様子を見るために川上に向かうと、山が荒れている。それ以降、先人の植林した人工林という資源を生かす方法はないか、考え始めた」

 白鷹町は町全域の65%を森林が覆う。戦後に植林された森林は伐期を迎え、林齢で36年生以上の木材が90%近くを占める。ただ「使う時期」を迎えながらも、人の手が入らず、荒れるに任されていたことが、水害時に下流の被害拡大を招いた。

 同じ轍(てつ)を踏まないようにするには、木材を使うほかない。木材を適切に使い、その伐採跡に植林し、森林として育て、再び適切に使う、という「緑の循環システム」を構築していく必要がある。町はそのシステム実現を目指すようになる。