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 日経BP 総合研究所 社会インフララボは、林野庁の2019年度補助事業において「CLT を含む低層非住宅と中大規模木造建築物の設計・施工者育成推進のための提案」検討委員会を組織し、木造建築に関心のある実務者に向けて情報を発信している。いわきCLT復興公営住宅は、福島県いわき市、小名浜の海辺から風が抜ける湯長谷川の河畔に2棟、3階建て、57戸からなる木造の集合住宅だ。住棟の壁面や軒裏の一部には、CLT(直交集成板)の温かみのある木部を現しで見せた。

福島県いわき市に建つCLTパネル工法、2棟・3階建て、57戸の復興公営住宅。A棟の南側外観(写真:浅田 美浩)
福島県いわき市に建つCLTパネル工法、2棟・3階建て、57戸の復興公営住宅。A棟の南側外観(写真:浅田 美浩)
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 「国内の豊かな木材資源を用いる木造建築によって、地域創生のモデルをつくることが大切だ」。設計を担当した白井設計代表の白井武男氏はこう話す。

 福島県の買取型復興公営住宅整備事業のプロポーザルにおいて、CLT(直交集成板)パネル工法による提案は、定量的評価のなかで「木材の使用量」が高い評価を受けた。

 いわきCLT復興公営住宅(福島県いわき市)でのCLTの使用量は2300m3、樹齢50〜60年のスギ1万2000本分に当たるという。完成時(2018年2月)において、一プロジェクトにおけるCLT使用量は日本一だった。

B棟の北側外観。右手前のB-W棟と左奥のB-E棟は鉄骨造の共用廊下を介して雁行(がんこう)につながる。廊下、エレベーターシャフトの外装には「Wood ALC(外壁用木製集成材)」を採用している(写真:浅田 美浩)
B棟の北側外観。右手前のB-W棟と左奥のB-E棟は鉄骨造の共用廊下を介して雁行(がんこう)につながる。廊下、エレベーターシャフトの外装には「Wood ALC(外壁用木製集成材)」を採用している(写真:浅田 美浩)
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配置平面計画。敷地の南北に共用廊下で雁行につながる2棟建て。北側の西側にA-W棟〜東側にA-E棟。南側西にB-W棟〜東側にB-E棟。敷地南側に道路を挟んで集会所を計画した(資料:青島 啓太)
配置平面計画。敷地の南北に共用廊下で雁行につながる2棟建て。北側の西側にA-W棟〜東側にA-E棟。南側西にB-W棟〜東側にB-E棟。敷地南側に道路を挟んで集会所を計画した(資料:青島 啓太)
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 このプロジェクトは、16年11月に募集を開始。応募した4事業者のなかから翌17年1月に「ふくしまCLT木造建築研究会『木あみ』(代表事業者は会津土建)」の提案が、里山の良好な環境に寄り添うデザインおよび産学連携の体制、福島の復興と地域創生に貢献し得ると評価され選定された。

 当時、東日本には、このプロジェクトで求めるサイズのCLTを生産できる工場がなかったことから、CLTについてはそのほとんどを岡山県真庭市の銘建工業から調達した。福島県産材を使ったCLT製造も考えたものの、岡山までの輸送料を考慮するとコスト高になり過ぎることが分かった。そのため、一部、県産材も輸送し用いたものの、他地域も含めた国産材のCLTを利用することになった。

 「そもそも、1万2000本という大量のスギを一度に調達することは難しい。日本の山林の適切な循環という視点に立てば、地域は限らずに国産の材を使うという考えに立つのが理想的だと考えるに至った」と白井氏は打ち明ける。

 集合住宅において一般的に用いられる鉄筋コンクリート(RC)造よりも、CLTの使用はコスト高になりがちだ。買取型事業においては、事業者グループが建物を完成させ、それを県が買い取ることになる。そのため、事業費も評価ポイントとなる。これには、プロポーザルで決められていたCLT採用によって受けられる、国からの特例加算(163万円/戸)で克服した。

 工期の面でRC造との比較においては、養生期間や型枠支保工の解体を要しないCLTパネル工法による躯体(くたい)工事は、短工期の提案が可能となり評価のポイントともなった。

 会津土建取締役社長の菅家洋一氏は、「復興公営住宅は入居時期が決められており、そのことからも短工期を実現することが求められていた」と話す。

 ふくしまCLT木造建築研究会は、いち早くCLTでの復興住宅実現のための体制づくりに取り組んできた。「研究会のなかで復興住宅にCLTが使えるか、コストが合うか、CLTの供給や施工ができるか――といったことを、設計・施工者だけでなく幅広く関係者を巻き込んで議論してきた」と菅家氏は話す。

事業の実施体制。福島県からのプロポーザルに、設計・施工共同企業体のふくしまCLT木造建築研究会「木あみ」が応募、選定された(資料:青島 啓太)
事業の実施体制。福島県からのプロポーザルに、設計・施工共同企業体のふくしまCLT木造建築研究会「木あみ」が応募、選定された(資料:青島 啓太)
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