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 日経BP 総合研究所 社会インフララボ、日経アーキテクチュア、日経ホームビルダー、日経不動産マーケット情報が2019年11月7日に開催した「木材活用フォーラム2019 in 大阪」の概要を紹介する。都市における中高層建築の木造化にはどんな課題があるのか。フォーラム登壇者が意見交換を行う。

日経BP 総合研究所 社会インフララボ、日経アーキテクチュア、日経ホームビルダー、日経不動産マーケット情報が2019年11月7日に開催した「木材活用フォーラム2019 in 大阪」のパネルディスカッション。右から順に、林野庁の齋藤健一氏、三菱地所の柳瀬拓也氏、東京大学の腰原幹雄氏、芝浦工業大学の山代悟氏、日経BPの小原隆(写真:生田 将人)
日経BP 総合研究所 社会インフララボ、日経アーキテクチュア、日経ホームビルダー、日経不動産マーケット情報が2019年11月7日に開催した「木材活用フォーラム2019 in 大阪」のパネルディスカッション。右から順に、林野庁の齋藤健一氏、三菱地所の柳瀬拓也氏、東京大学の腰原幹雄氏、芝浦工業大学の山代悟氏、日経BPの小原隆(写真:生田 将人)
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小原隆(以下・小原):ディスカッションの前に、まず、日本の林業や市場の現状について、林野庁の齋藤木材製品技術室長に解説いただきたい。

齋藤 健一 氏
齋藤 健一 氏
林野庁 林政部木材産業課
木材製品技術室長(写真:生田 将人)

齋藤健一氏(以下・齋藤氏):講演は建築についての話が中心だったが、私は林野庁の立場から、国内の山林や生産者の状況を紹介したいと思う。

 近年、木材利用が注目されている理由の1つに、地球温暖化対策への貢献がある。欧州を中心に、温暖化対策への機運は高まっていて、18年のCOP24(国連気候変動枠組条約第24回締約国会議)でも、地球温暖化防止に向けた森林吸収源対策が認められた。日本でも引き続き、同対策を進めるとともに、木材利用を通したCO2固定を推進していく予定だ。

 SDGsの17の目標に沿った取り組みを、活動方針に掲げる企業は多いと思う。木材利用は、SDGsのうち生産・消費に関わる「つくる責任 つかう責任」への関係性が深い。木材は循環利用が可能で、持続的に活用できる数少ない資源だ。国内において木材は、山村で生産して都市で使う、都市と山村をつなぐ媒体となり、その生産消費サイクルは地方創生にもつながる。

 日本の林業は、戦後復興で木材需要が急増し、1960年代半ばには森林資源の枯渇が問題になった。その後、造林の努力で、人工林の蓄積は60年代半ばと比べ5倍に増加している。約50年の林齢で丸太の生産が可能になるため、日本の森は供給余力がある状況と言える。

 一方、日本は少子高齢化で新設住宅着工戸数は減少傾向にある。木材利用の4割を占める建築材料の主軸である住宅市場が縮小すると、木材の大きな需要分野を失ってしまうことになる。非住宅の中高層建築では、木材はほぼ使われていないからだ。しかし、視点を変えれば、中高層建築に木材需要のフロンティアがあると考えることができるだろう。欧州では、CLTは一般的な木質部材として中高層建築に採用され、年間約100万m3生産されている。

 日本では、都市部の密集地域での建築への木材利用では、耐火性能を問題視する傾向にあるが、実際はさまざまな耐火部材・技術が開発され、3時間耐火で大臣認定を受けている製品もある。耐火などの技術的問題は克服しつつあり、今後、中高層の分野に利用を広げるには、さらなるコストダウンが重要になるだろう。そのため林野庁では、技術開発支援や需要拡大の支援に取り組んでいる。