全3521文字
PR

スパンを飛ばし、方杖を見せる

 構造設計者として稲山氏は、結婚式や披露宴に用いる柱のない空間を予算内でつくり出すにはどうすればいいかを模索した。その結果、一般流通材である105mm角のヒノキ製材やホワイトウッド集成材を構造材に利用し、スパンを飛ばす方法を考案した。

構造設計を担当したホルツストラを率いる稲山正弘氏(写真:浅田 美治)
構造設計を担当したホルツストラを率いる稲山正弘氏(写真:浅田 美治)

 それが、柱と梁の間に斜めに渡す方杖の利用と、300mmという細かな柱間隔。メイン客席空間の架構を特徴づける2つの要素である。稲山氏のこうした考え方を受け、團氏は柱と同様300mmピッチで並ぶことになる方杖を見せるデザインを提案する。

 「空港施設や体育館など、構造体をむき出しにしても美しく見える建物がある。この建物でも、規模はそう大きくないが、構造体を見せたほうがデザイン効果は高いと考えた。ここではただ見せるだけでなく、それをさらに発展させた」(團氏)

 その発展形が、方杖が波打つような動きを見せる架構である。

 方杖は取り付け角度によって波打つような動きを見せるだけではない。柱の並ぶ一方の列には縦長スリット状の開口部がその隙間に設けられており、東方向から日差しが入る。その日差しの入り方を、方杖は微妙に変える役割も担う。

メイン客席空間内から東方向を見る。縦長スリット状の開口部から日差しを取り込む。この柱のように目立つ箇所の構造材には、一般流通材である105mm角のヒノキ製材を用いている(写真:浅田 美治)
メイン客席空間内から東方向を見る。縦長スリット状の開口部から日差しを取り込む。この柱のように目立つ箇所の構造材には、一般流通材である105mm角のヒノキ製材を用いている(写真:浅田 美治)
[画像のクリックで拡大表示]

 團氏は「日差しの入り方も意識しながら、柱と登り梁との間にできる三角形の空間を広げたり狭めたりするなど、方杖の取り付け角度を検討した」と振り返る。稲山氏との間では、3次元(3D)CAD図面を基にやり取りを重ねた。

 問題は、意匠設計者と構造設計者で合意した架構を実現できるかという点だ。

 柱・梁と方杖の接合は、プレカットで加工した仕口を用いる。方杖の取り付け角度が1本1本異なれば、仕口の納まりも1本1本異なることになる。加工そのものはプレカット機械で自動的に処理できるが、そのデータ作成には手間の掛かる作業が必要だ。

 この建物でプレカット加工を担当したのは、隣県である静岡県の富士市に本社工場を持つマルダイ。稲山氏が代表理事を務める中大規模木造プレカット技術協会(PWA)の会員で、プレカット事業部の功刀友輔氏は同協会理事でもある。

柱や登り梁に対する取り付け角度を変えることで、方杖には波打つような動きを持たせた。天井から下がる照明器具の高さにはこだわり、照明メーカー側の担当者にその調整を任せた(写真:浅田 美治)
柱や登り梁に対する取り付け角度を変えることで、方杖には波打つような動きを持たせた。天井から下がる照明器具の高さにはこだわり、照明メーカー側の担当者にその調整を任せた(写真:浅田 美治)
[画像のクリックで拡大表示]