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 日経BP 総合研究所、日経アーキテクチュア、日経クロステックが2022年12月15日に開催した「木材活用フォーラム2022冬」の概要を紹介する。日本の重要な資源である森林の循環利用促進には、木材需要の向上が不可欠。本フォーラムでは木材活用に関する多様な情報を設計・施工者や発注者と共有し、脱炭素やSDGs(持続可能な開発目標)実現の課題解決を考えた。SDGsやESG(環境・社会・企業統治)投資の潮流に基づき、木造建築の需要を拡大するために何が必要か(記事内容は2022年12月15日時点)。

坂口 大史 氏
坂口 大史 氏
日本福祉大学 福祉工学科 建築バリアフリー専修 准教授

坂口大史氏 2022年秋から、名古屋の都心で「ウッドシティ構想」が着工し、1棟目は2023年3月ころの竣工を目指している。JR・名鉄金山駅(名古屋市)に近い近隣商業地域で、準防火地域に1棟目は3階、順次4、5階の中規模木造建築を開発する意欲的なプロジェクトだ。

 このプロジェクトで結成した「Urban CLT」には、金物開発から意匠・構造・施工・調査研究まで、中規模木造実現に必要な人材が集まった。今回の図面資料などを公開し、中規模木造開発の相談には、課題解決方法や必要な情報も提供できる。

 プロジェクトの特徴は、120角・120幅でフレームを構成、軸組+CLT(直交集成板)のユニットは水平展開はもちろん垂直方向も5層まで目指せる仕様になっている。既存のプレカットラインが活用できるためコストダウンが期待でき、随所に工場生産した耐力壁を使うことで施工の手間を減らし、建て方が3日で完了するなど工期短縮にも貢献する。

 建設中の建物はJRと名鉄の車窓から日常的に見える景色の中にある。この1棟を契機に複数の中規模木造を連動させ、都市の景色の先に見える「森とのつながり」をつくることが私たちの使命と考えている。2023年からは現場見学も開催する予定だ。

小林 道和 氏
小林 道和 氏
竹中工務店 木造・木質建築推進本部 シニアチーフエンジニア

小林道和氏 建設業界では、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)モデルで保持する建築属性情報に、ESG経営を視野に入れ、①二酸化炭素(CO2)排出量・貯蔵量②持続可能な木材調達のエビデンスの情報の追加措置が必要になると考えている。

 ①については、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)のコンソーシアムのサイトが、温暖化ガス(GHG)排出量算出の方法論を開示している。GHGプロトコルは「グリーン・バリュー・チェーン」のサイトに情報が集約されているが、建設分野向けに整備された情報はまだ少ない。建築物の排出量の算定には日本建築学会「建物LCA指針」算定ツールがあり、貯蔵量については林野庁の「建築物に利用した木材に係る炭素貯蔵量の表示に関するガイドライン」が計算式を示している。これらの公開ツールで情報化が可能だ。

 ②については、企業が木材を調達する際に、森林生態系や地域への悪影響、法律違反などを「木材デューデリジェンス」の手法でリスク管理を行う。加えて2023年9月に公開される自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)への対応も求められる。木材市場では、森林認証制度、「クリーンウッド法」業界団体の認定制度、事業者独自の認証があるが、これらを組み合わせTNFDに対応することが今後の課題になると考えている。

海老澤 渉 氏
海老澤 渉 氏
三菱地所 関連事業推進室 CLT WOOD PROMOTIONユニット 統括

海老澤渉氏 2023年以降の三菱地所グループの取り組みについて紹介したい。同グループでは「SDGs2030」で国産材の積極活用を標榜し、SDGs実現に向け都市の木造木質化の最大化が重要であると唱えている。木質化についてはウェルビーイング(心身の健康と幸福)の観点からも重視している。これらに関わるグループのコア事業者には三菱地所を筆頭に6社があるが、ここでは三菱地所設計、三菱地所ホーム、三菱地所住宅加工センターの3社を紹介する。

 三菱地所設計は130年以上の経験と技術力で木の可能性を最大限引き出す空間づくりを目指す。木造ハイブリッド高層建築の設計を手がけ、超高層化にも挑んでいる。三菱地所ホームは木造注文住宅のノウハウと新工法の開発とともに、非住宅分野の木造建築物の事業展開を行う予定だ。三菱地所住宅加工センターは木材調達からプレカット、パネル化など木造化の設計・施工をサポートし、木造の倉庫や中層集合住宅などを手がけている。2022年から本格稼働したMEC Industryとともに一気通貫で都市木造をサポートしていく。

 三菱地所グループは啓蒙活動にも注力しており、日本ウッドデザイン協会(JWDA)の運営に携わってきた。ステークホルダーとの対話・協力で木のある豊かな暮らし、森林林業の成長産業化と地方創生を推進、脱炭素化に配慮した持続可能社会への貢献を目的とする協会だ。ビジネスマッチングなど、木に関わる人材および企業の交流も後押ししている。

土居 隆行 氏
土居 隆行 氏
林野庁 林政部 木材産業課 木材製品技術室長

土居隆行氏 近年、計画中を含め国内の中大規模木造建築は増えており、不動産会社や建築事業者がSDGsや脱炭素の観点からPRに力を入れるなど、社会的な評価も高まっている。

 林野庁では、先に小林氏が解説した通り、建築物に利用した木材の炭素貯蔵量を分かりやすく表示するガイドラインを作成し、2021年10月に公表した。表計算ソフトで簡単に炭素貯蔵量が算出できる計算シートを林野庁ウェブサイトに公開しているので活用いただきたい。

 木材は炭素の観点だけでなく、森林資源の活用により地域へ貢献できる特質もある。そこで林野庁では、ESG投資における建築物への木材利用の評価に関する検討を進めてきた。2021年度は評価項目や指標内容の整理と、CO2の算定・削減・炭素貯蔵の具体的な評価手法や課題の検討を行った。2022年度は、国際的なESG関連情報開示の動向を踏まえた国内での対応状況の把握情報の整理を行い、CO2の算定・削減・炭素貯蔵はモデル建築物を対象とした評価指標・手法の検討を進めている。資源の持続可能性については、責任ある調達、森林資源の活用による地域貢献、再生可能資源によるサーキュラーエコノミー(循環型経済)への貢献について、具体的な評価指標・手法についての検討を進めている。