日経BP 総合研究所 社会インフララボは、林野庁の2019年度補助事業において「CLT を含む低層非住宅と中大規模木造建築物の設計・施工者育成推進のための提案」検討委員会を組織し、木造建築に関心のある実務者に向けて情報を発信している。2020年1月21日、やまだ屋おおのファクトリー早瀬庵(広島県廿日市市)を取材した。厚板木造プレハブ工法のプロトタイプとして建設された平屋建ての茶室だ。
木造建築を広めるには、設計・施工技術の標準化が欠かせない。その一環としてLVL(単板積層材)やCLT(直交集成板)といった厚板を用いた木造プレハブ工法の開発に挑んだのが、2019年9月に開業したやまだ屋おおのファクトリー早瀬庵だ。
建築主であるやまだ屋は広島名物として知られる「もみじ饅頭」の老舗。厳島神社のある宮島に本店を置く。早瀬庵は、広島県廿日市市内の国道沿いに10年7月に開業した店舗併設の工場「おおのファクトリー」の一角に建設した茶室だ。
茶室らしく、配置は敷地の奥。既設店舗と向かい合う敷地正面に、ひと足早く19年2月に開業した手焼き体験施設と、敷地の周囲にぐるりと巡らされたLVL製の塀との間に設けられた露地を真っすぐ進むと、茶室の出入り口が現れる。
内部は、椅子席で茶をたてる立礼席と、数寄屋づくりの畳の広間となっている。4連の大型ガラス引き込み戸で仕切られた屋外は、LVL製の塀で囲まれた露地。立礼席と同じタイルで仕上げられており、ガラス戸を開け放てば内外の空間を一体的に利用できる。
開業以降、レンタルスペースとして一般に開放し、利用のない週末は自社で「お茶室喫茶」を営業している。やまだ屋代表取締役の中村靖富満氏は「今年春から、茶をたてながら講師の話を聞く茶会を、20人規模で年4回程度開催する予定」と話す。

木造化と同時に内装の木質化を図れるLVLやCLTの利用は、発注要件として必ずしも当初から想定されていたものではなかったが、建築主側の評価は高い。「木が見えるのは、温かみがあり、おしゃれな感じがいい。斬新な店舗をつくれれば、評判になりそうだ」(中村氏)
茶室の建設は、おおのファクトリー開業10年を節目に計画された。「おおのファクトリーの運営が軌道に乗ってきたため、そのランドマークになる施設を建設することを決めた」。中村氏は建設計画のいきさつをこう明かす。
中村氏は茶道に縁が深い。広島生まれの上田宗箇流を高校時代から学び、1997年には宗匠の指導を仰いだ銘菓「桐葉菓」を製品化した経緯がある。茶室を開業した19年は、流派の創始者で武将茶人である上田宗箇が広島に入国して400年目にあたる。