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 日経BP 総合研究所 社会インフララボ、日経アーキテクチュア、日経クロステックが2021年7月15日に開催した「木材活用フォーラム2021・夏」の概要を紹介する。近代建築の建材、鉄、ガラス、コンクリートに革新的な進化は少ないが、木材だけはイノベーティブな進化を続けている。原田真宏氏は「新しい木材」による新しい空間様式に挑む(記事内容は2021年7月15日時点)。

原田 真宏 氏
原田 真宏 氏
マウントフジアーキテクツスタジオ 一級建築士事務所 主宰建築家/芝浦工業大学 教授

 愛知県知立市の学童施設とカフェの複合施設「知立の寺子屋」は、2つの鉄骨の鳥居状ストラクチュアに布のような木屋根がふわりと架かる建築だ。重力なりに垂れ下がる等分布荷重の懸垂曲線は、屋根の中の曲げモーメントを最小化する。この定理により、一般的な住宅用集成材だけで、20mスパンを無柱で架けわたした。

 知立は江戸期の宿場町で、街道沿いに寺が多い。歴史的文脈に適う建築であると同時に、アフタースクールでは子供に自然科学の実験を英語で教えていて、自然科学のグローバルな普遍性に適う建築であることも求められた。

 まず、正面から見た「知立の寺子屋」は、歴史や景観との連続性を考え、地元の寺の歴史的な構えに倣った。一方、妻側から見た外観は、前述の通り、二連の木造屋根が、自然科学の基底的な原理である懸垂曲線を描く。2階はシーツの下に潜り込んだような居心地のよい空間で、鉄やRCでなく木なので、子供の身体に近い空間が実現できた。

 敷地形状は間口が広く、奥に進むにしたがい幅が狭くなる。長方形の敷地なら同じ梁の反復で設計できるが、ここでは約1440本の梁の形状がすべて異なる。こうした複雑な構成も、シミュレーションで構造的に成立可能か把握して進めることができる。形が異なる梁材はパラメトリックデザインによる3Dモデル化で、コンピュータ制御工作機械で加工することもできる。

 曲面屋根はハーフパイプ状の支保工上で編み込み、支保工を外し垂れを測定すると、構造計算上では最大20㎜だが実際には18㎜だった。シミュレーションの精度にも驚くが、予測通りの施工を実現した木造大工の腕にも驚いた。日本の木造はデザイン的に最先端と言えるが、その実現には、モデリング技術やコンピュータ連動加工機などの先端技術と同時に、伝統的に蓄積してきた大工の知見や技術も不可欠だ。今の日本にはこれら両方が同時にあるため、「知立の寺子屋」のような新しい木造建築が生まれている。しかし木造大工の高齢化は顕著で、技術の継承と育成は大きな課題だと思う。

愛知県知立市の学童施設とカフェの複合施設「知立の寺子屋」(2016)

(写真:藤塚光政)
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