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 日経BP 総合研究所 社会インフララボ、日経アーキテクチュア、日経クロステックが2021年7月15日に開催した「木材活用フォーラム2021・夏」の概要を紹介する。木造建築や木材に関わる3人のプレゼンテーションの後、日本で木造建築を普及させるために取り組むべきことについて議論を深めた(記事内容は2021年7月15日時点)。

小林 道和 氏
小林 道和 氏
竹中工務店 木造・木質建築推進本部 営業・プロモーショングループ 部長

小林道和氏 竹中工務店では竣工前のプロジェクトを含め、20~30件の中大規模木造木質建築を手がけてきた。この10年を振り返ると、公共建築物木材利用促進法、SDGs(持続可能な開発目標)やパリ協定の採択、カーボンニュートラル宣言など、木造建築には追い風が吹いた10年間だった。

 建設業界では五輪後の景気減退が不安視されるが、木造建築はESG(環境・社会・ガバナンス)投資の後押しを受け、まだ伸びていくと感じている。当社と木造に取り組んだヒューリックや野村不動産は、ESG目標を見据えたサステナビリティ関連の社債を発行し話題になった。こうした流れは今後も加速していくはずだ。

 建築主は今後、投資家から3つの問いが投げかけられるだろう。❶その材料(木材)は持続可能な材料か? ❷木造・木質化でどれほどのCO2が削減できたか? ❸木造・木質建築/空間は事業に優位性をもたらすのか?

 こうした問いに対する答えが求められるようになる。一方、木造木質建築が社会や投資対象に受け入れられるため以下の5つの課題を提示したい。

 ❶建設工事費の削減、❷耐久性に関する建築主等の不安の払拭、❸木質建材を購入するまでのCO2排出量の明確化・削減、❹厳格なトレーサビリティの証明、❺(半)永久的に燃やさない森林資源・木質建材のサーキュラーエコノミー。

坂口 大史 氏
坂口 大史 氏
日本福祉大学 福祉工学科 建築バリアフリー専修 准教授

坂口大史氏 直接的に利用者が体感できる空間内装の木質化は、木造や木材利用に関する需要喚起において効果的だ。その効果実証事業を紹介する。2020年度、大学教育施設、地域交流施設、子育て支援施設などの内装を木質化し、非木質化と比較してどんな効果があったかを調査研究した。生活者の多くは「木ってなんとなくいいよね」と感じていると思うが、これを次のレベルに引き上げる必要を感じている。「なんとなく」のエビデンスデータ集約や、経済的な価値に置換して客観的指標を提示していく。

 大学教育施設のテストでは、木質化空間のほうが生産性が向上し、また、木質化した空間のほうがより高い使用料が期待できるなど、生産性・経済性の両面で木質の方が効果的である結果が得られた。地域交流施設では空間満足度を調査したが、木質はポジティブな回答が多く、子育て支援施設では作業前後のストレスを比較すると、木質はストレス緩和に貢献できる結果が得られた。

 今後は継続的にデータを収集し、体系的なエビデンスデータとして、建築設計やビジネスに役立つ情報提供を行っていきたいと考えている。

 実践的な木造プロジェクトの例として、フィンランドのWood Cityに倣い名古屋版Wood City構想を進めている。名古屋市の金山エリアに、競争力と普及性のある中層木造建築を集積した「木造ブロック」を構想する。木造建築に関わる専門家チームを結成しネットワークを強化、木造関連情報の体系的な収集とパッケージ化に挑む。協議会を組織し、材木店、設計事務所、地場工務店、建築金物などのスペシャリストと都市木造を考える。敷地は近隣商業地域/準防火地域で、中層木造の計画には厳しい環境だが、金山駅に近く、完成すると電車の車窓からも見える。一般の方々にも木の見える風景が身近になると考えている。

 都市で木を使うことで、その経済循環を山林に回して、都市と山の経済循環の仕組みを確立する挑戦でもある。コスト、耐火、耐震など課題は山積しているが、これらをどうクリアして木造の普及を図っていくか、知恵を出し合っているところだ。

齋藤 健一 氏
齋藤 健一 氏
林野庁 林政部 木材産業課長

齋藤健一氏 私からは輸入材の需給変動への対応について話をしたい。

 今年に入り米国の住宅需要の拡大などにより、木材需要が高まり産地価格が高騰した。併せてコンテナ不足で海上輸送運賃も上昇、中国や欧州の需要環境にも変化が見られ、特に欧州材の調達が困難になっている。これらを背景に、日本への製材輸入量は2割程度減少した。日本の低層住宅の8割は木造で、資材の半分は輸入材が占める。輸入材のシェアは高く、輸入材の動向に市場が左右される状況が構造的にあった。

 今回の事態を受けて代替需要に対応すべく、国内工場は稼働率を上げて対応している。しかし、国内工場が増産を試みても、「急に原木を調達できない」「労働力不足」「供給キャパシティの問題」などで、不足する輸入材を補うのは難しいのが現状だ。

 林野庁では初期段階より、関係者間で需給動向の正確な情報共有の場を設け、過剰在庫を抱えている企業には供出の協力を要請するなど、短期的対応を進めてきた。ロングスパンで考えるなら国産材のシェアを高めていくことが重要になると考えている。