高知県は県土面積の84%を森林が占める森林県だ。その森林の約7割はスギやヒノキの人工林となる。豊富な森林資源を背景に、高知県では四半世紀前から非住宅の木造化が試みられてきた。高知県で木造建築に積極的に取り組む3人の設計者に集まってもらい、座談会を開催した。今回はその前編。
座談会の出席者(五十音順)
- 建築設計群 無垢 東哲也氏
- 建築舎KIT代表 喜多泰之氏
- 鈴江章宏建築設計事務所代表 鈴江章宏氏
モデレーター
- 日経BP総研 社会インフララボ 上席研究員 小原隆
小原:高知県では、かなり前から木造建築の機運があったと聞きます。最近ではCLT(直交集成板)を使った建築への取り組みでも一歩先を走っている印象です。高知県の設計者が木造建築に積極的に取り組むようになった経緯を教えてください。
東:1990年代半ばくらいから、高知県では学校や体育施設(2002年に高知国体開催)などの公共施設を中心に木造でつくる「木の文化県構想」という運動を行ってきました。
喜多:その機運の中で、高知県建築士会が高知市中心部の商店街活性化のためにアーケードを木造化しようと提案し、それが受け入れられて「はりまや橋商店街木造アーケード」(高知市、完成:1998年、設計:艸建築工房・西森啓史建築研究所)が実現しました。現在のような告示がなかったことから、当時は大臣認定を取るなどハードルが高かったようです。
それまで高知県産木材を活用して住宅をつくっていた「土佐派の家」のメンバーを中心に、高知県を代表する複数の設計事務所が非住宅の公共建築物に取り組み始めました。「高知県立中芸高校格技場」(田野町、1995年、山本長水建築設計事務所)、「県立清水高校格技場」(土佐清水市、1995年、上田建築事務所)といった木造建築が建てられました。県立清水高校格技場は東さんが担当されていましたね。
「木の文化県構想」の一環で、建築家の内藤廣氏に話を持ちかけて、鉄筋コンクリート(RC)造+鉄骨(S)造+木造の「牧野富太郎記念館」(高知市、1999年、内藤廣建築設計事務所)も完成しました。
公設民営のレクリエーション施設「雲の上のプール」(檮原町、1998年、細木建築研究所)や「オーベルジュ土佐山」(高知市、1998年、細木建築研究所)なども建てられました。振り返ると、高知県では25年くらい前から木造建築に取り組んできたことになります。