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失敗しても次につなげる

小原:なるほど、1990年代半ばからというのは早いですね。その頃は、まだ木造建築の設計についてノウハウがあまり蓄積されていなかったのでしょうか。

:トライ・アンド・エラーで取り組んできました。失敗を恐れずに、次につなげていくような勢いがありました。

喜多:初期には、スギの小径木の「3段重ね梁」という技術を研究していました。「間伐材の活用を」と言っていた時代です。今の高知県森林技術センター、その頃は前身の工業技術センターでこの技術を研究していたのです。

 3段重ね梁をうまく使ったのが、先に紹介した中芸高校の格技場です。90mmのヒノキの角材を3段重ねた梁(255mの梁せいになる)で、芯芯で15m(軒先まで入れると18m)のスパンを実現しました。

鈴江:高知の設計者同士で、あれこれ情報交換しながら取り組んできたと聞いています。高知の設計者は小さなコミュニティーということもあり、みんな仲が良いのだと思います。

喜多:担当した東さんに尋ねますが、県立清水高校格技場の架構は、どのように思いついたのでしょうか。

:スウェーデンの建築か工作物で、積み重ねた梁があったことに着想を得て提案しました。

喜多:そうした新しいアイデアにトライさせてくれる人がいたこともありがたかったですね。

小原:どのようにトライしましたか。

:木材団地の中に実物大のモックアップをつくりました。県内の木材会社の社長や、県立工業技術センター(当時)の所長も来てくれたのを覚えています。今考えると、手探りでやっていました。構造上の性能が足りなければ、他の樹種も検討してみるなど、とにかくやれるだけやりました。

喜多:今でこそ常識ですが、山本長水氏(山本長水建築設計事務所代表)が「含水率が大切だ」ということを話したそうです。木を使う上では当たり前の知識や情報が、その場にいなくても流れてきました。

小原:実際に、プロジェクトや実験に関わっていない人にもそうした情報が伝わっていたのですか。

喜多:そうです。その理由は、仲が良いという言葉だけではくくれないかもしれません。工業試験場などで得られた成果などは、なぜか僕も知っていました。山本さんの事務所にいたわけでもないのに……。

鈴江:建築士会などの職能団体が媒介したのでしょうか。

:それとも工業技術センターの取り組みだったのでしょうか。

喜多:当時の工業技術センターもそうですが、「木の文化県構想」という運動が後押しをしたのでしょう。高知では、こうした技術的な情報が割とオープンに広がりやすい傾向があります。大都市では難しかったかもしれません。

喜多:さらに、芸西村が総務省の指定する「高知県産材活用推進福祉特区」という構造改革特区を取得して、「特別養護老人ホーム・ウエルプラザ洋寿荘」(芸西村、2008年、RISE・細木設計共同企業体)を建築しました。

 当時、老人ホームは耐火建築物でないと建てられませんでしたが、特区になることで、準耐火建築物でも大丈夫になりました。国内初となる木造2階建ての準耐火建築物の特別養護老人ホームが実現できました。

特別養護老人ホーム・ウエルプラザ洋寿荘(芸西村、2008年、RISE・細木設計共同企業体)(写真:細木建築研究所)
特別養護老人ホーム・ウエルプラザ洋寿荘(芸西村、2008年、RISE・細木設計共同企業体)(写真:細木建築研究所)
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:すごいですね。

喜多:「はりまや橋商店街木造アーケード」もそうです。アーケードの工事監理には私も関わっていました。

 準防火地域で木造のアーケードを実現するために、たくさんの人が尽力しました。土佐派のメンバーの次の世代に当たる、私の師匠だった平山昌信氏、故西森啓史氏をはじめ高知県建築士会青年部が中心になりました。

 国土交通省と何回も打ち合わせして、ドレンチャーを設置したり、改修してアーケード側の商店の外壁を防火構造としたりする工夫などを提案したと聞いています。国交省だけでなく、消防庁にも行き、散々掛け合って実現しました。

 こうした先達の挑戦があって、我々は木造に取り組めています。例えば、「ウエルプラザ洋寿荘」を準耐火で実現していたので、私が最近設計した「地域密着型福祉施設あんきな家清水ヶ丘」(土佐清水市、2018年、建築舎KIT)も準耐火建築物で建てることができました。

 今や特別養護老人ホームは、地域の消防署の許可を受けて地域と防災の協定を結べば、準耐火でよいことになっています。特区制度に法律が追い付いてきました。高知県の先輩たちのおかげです。

喜多氏が設計し、2018年に完成した準耐火建築物の地域密着型福祉施設あんきな家清水ヶ丘(写真:建築舎KIT)
喜多氏が設計し、2018年に完成した準耐火建築物の地域密着型福祉施設あんきな家清水ヶ丘(写真:建築舎KIT)
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