日経BP 総合研究所は、林野庁の令和4年度(2022年度)補助事業における中高層・中大規模木造建築物の設計・施工者育成推進のための提案として、木造建築に取り組む実務者に向けて情報を発信している。中層木造の普及モデル開発を目指す「名古屋版Wood City構想」では、第1弾が2023年4月にいよいよ完成を迎える。
そのビルは、JR・名古屋鉄道の金山駅から徒歩数分の線路沿いに立つ。工事中の地上3階建ての最上階を見上げると、線路側に向け、「金山wood city」の看板を掲げる。目の前を行き来するJRや名鉄の乗客に対して自らの存在を訴えかけるかのよう。完成は2023年4月を見込む。
名古屋版Wood Cityは、このビルの建築主であり意匠設計者でもあるstudio KOIVU一級建築士事務所(名古屋市)の坂口大史氏が提唱する構想だ。中層木造の普及モデルを開発し、そのモデルに基づくビルを一帯に建設する。留学経験もあるフィンランドのヘルシンキ市西部で木造化・木質化を進める複合開発「WOOD CITY」にならった。同氏は日本福祉大学健康科学部福祉工学科准教授の顔も持つ。
「コンセプトは、毎日10万人が見る木造建築。このビルを多くの人に見てもらうことで、地上5階建てまでを狙う中層木造のモデルを普及させたい」と、坂口氏は意気込む。「金山駅の乗降人員は1日40万人規模。その4分の1には電車の窓越しにこのビルを見てもらえるのではないか」
外壁の仕上げはガルバリウム鋼板だが、「木造」をアピールする狙いから、線路側を向く2面は、その上をさらに、木材保護塗料を塗布した木製ルーバーをパネル化したもので覆っていく。外壁に木材を用いると紫外線で退色する恐れがあるが、それこそ、木材の持ち味。坂口氏は「経年変化を許容できるデザインを考えた結果、木製ルーバーに行き着いた」と、設計の意図を明かす。
主な用途は賃貸オフィスだ。1階にはstudio KOIVU一級建築士事務所が拠点を構え、建物中央の階段を上がると、2階と3階に貸室が2つずつ、階段室を挟んで向かい合う。テナントには、中層木造ビルの普及を担う木造建築関係者の入居を想定している。
ビル計画の内容は、2022年3月14日付け記事「部材開発と体制整備で木造ビル普及への道筋を」ですでに伝えたが、ここでは計画がその後どのように実現にまでこぎつけたのか、改めてみていこう。