全7458文字
PR

木造建築を一度整理する

小原:最後にまとめとして、中大規模木造建築に取り組む設計者や施工者の育成、普及を拡大する上で、どういう障壁があって、どうしたらそれを克服していけるかをお聞かせください。

藤田:最近、自分が学生の頃に学んだ教科書を読みなおしています。実は木造の教科書はあまり出版されていません。昭和40〜50年代に書かれた本をいまだに売っていますし、その頃の本はよく書けています。

 木構造の先生が書いた木構造の本はありますが、木造全般の基本についての教科書が少なくて、学びづらい状況なのかと思います。昔の教科書には「木とはこういうものだ、くせもあるし、欠点もある」と正直に書いてあります。さらに構造計画についても書いてあるし、わかりやすい。今はそうした教科書に当たるものが抜けているのかなという気がしています。

山代: RC造やS造をやってきた人が、木造に取り組もうとしたときに読むべき本がないですね。あったとしても、木の年輪の寄り具合を見て正しい向きで使いましょうみたいな、今知りたい実務から少し離れた内容が多い。

藤田:木造ビギナーが最初に読むに値する本が見当たりません。昔は、実務者などが書いた実務寄りの本がたくさんありました。それを読むと、なるほど木造ってこうなんだ、と理解ができます。

 稲山先生の本を読んだからといって、いきなり中大規模木造に取り組むことはできないんですね。昔の本を読んでみると、その一歩手前の「木造ってこうなんだ」という基礎的な部分が書かれているように思います。RC造やS造については勤務先の実務の中で教わりましたが、木造については、実務でも本でも、木造を学ぶすべがない。

山代:建築業界として木造の実務経験が少ない状態では、なかなか難しいですね。

藤田:本来は実務をやりながら学ばないといけないのですが、設計事務所でも木造住宅が中心のところは少ないでしょう。木造をちゃんと継続的に仕事にしていて、木造に取り組みたい人が入って来て学んで1人前になっていくことが難しい状況です。

稲山:大学で、木造の工法について学生に教えるのですが、現代の標準的な工法がちゃんと図解して載っているものがありません。だいたいひと昔前の木造の図が載っています。小屋梁に丸太が使われているような図ばかりで、現代の標準的なプレカットで野地板に構造用合板が直張りされており、梁の天端が全部そろっているような木造住宅の図はどこにもない。普通につくられている木造について知る教科書がないのです。

山代:私は実務においては、非住宅の中大規模をS造やRC造でつくるというところから設計を始めてきました。そして、この10年くらい、非住宅の木造に取り組む中で、少しずつ木造に関する知識は増えてきたと思います。一方で、木造を経験したことのない人が設計できないかというと、そういう気はしません。

 もちろん優秀な構造設計者などの協力は必要ですが、多分2〜3件の木造を手掛ければできるようになると思います。ただ、一度だけ木造に取り組んだけれども結構大変だったね、もうやめておこうと、立ち止まってしまう人が多いのも事実です。

 例えば、木造に取り組むのが2〜3回目になると、補助金の補助率が上がるとか……。極端ですが、木造に継続的に取り組む姿勢を後押しする制度があればいいですね。2〜3件経験してみて、ある程度何となく理解できた人たちが各設計事務所に2〜3人ずついるという体制をどれだけ早くつくれるか。そうなれば、設計の現場で先輩から教わることも可能になります。そこは制度的にも後押しできるところではないでしょうか。

稲山:私は大学で教えていますので、設計者を学生の段階から育てるということでは、木造をちゃんと教えるという体系が整備されないまま今に来てしまった認識はあります。今世紀になって木造はものすごく進化しています。木質材料もいろいろな種類がつくられ、いろいろな新しい工法も生まれている。古い木造の教科書しかないと言いましたが、それとは違う現代の木造を教えられるちゃんとした教科書をつくらなければならないと考えています。

青木:工務店は求められる建築の規模によって、設計・施工、元請け、ゼネコンの下請けなど、さまざまなケースがあります。住宅の場合、施工計画書をつくることは少ないと思いますが、それなりの規模になると施工計画書をつくった上で必要な人員や材料の調達などを行わなければならない。そのような習慣を工務店も身に付けないといけないでしょう。

 規模が大きくなれば、今まで一般建設業の許可で問題なかったとしても、特定建設業が必要になる。下請けで入るのであれば、木工事の建設業許可を取ったり、会社の体制もしっかりと整備したりしていかないとならない。一方で、現状は設計者の多くが木の素材を知らないまま設計することが少なくないので、木材を知るコーディネーターとしての役割も工務店は担う必要があります。

腰原:工法が普及する仕組みについて問題意識があります。2000年に建築基準法が改正され、2010年くらいから木造で非住宅、低層、中層――と取り組みが進んできた。つまり中大規模木造については、この10年くらいの経験しかない。

 自然の流れの中でこれからどうやって普及させていくのか。あるいは、ちゃんとかじ取りをして、こうあるべきだという普及の筋道をどうやってつけるのか。そのあたりが見えていません。建築技術の普及という視点で見ると、100年ぶりくらいのトピックです。S造やRC造は約100年前に材料が入って来て、工法が入って来て、普及してストックとして積み上がっている。その間に新しい建築工法は生まれていない。

 木自体は新しい材料ではないが、中大規模木造については、新しい材料を使って新しい建築をつくることになります。林野庁や国土交通省の先導的事業の補助金で、これまで多くの新しい取り組みが行われてきました。さまざまな工法が試みられて、そろそろ10年くらいたっています。そろそろ振り返ることも必要ではないでしょうか。

 木造についての教科書についてもそうですが、一度整理することが肝要かと。中大規模木造に取り組むに当たり、その定番となる工法が整理されていないことが課題だと考えます。

小原:実際にこれまでに建てられた木造建築を、維持管理面も含めて検証するということですね。

腰原:ちゃんと定着したのかどうか。そこが整理されると、先ほどから話題となっている木造についての新しい教科書となります。失敗例も含めて、情報が共有できるといい。工法については、時間をかけて淘汰されていくのを待つのだとすると、40〜50年後には何とかなるはず。ただしそれを待たずに中大規模木造を推進していくのであれば、その意識を持って整理しないといけないのではないでしょうか。

小原:みなさん、ありがとうございました。

座談会は2020年2月28日に行った。左から山代悟氏、藤田譲氏、腰原幹雄氏、青木哲也氏、稲山正弘氏(写真:浅田 美浩)
座談会は2020年2月28日に行った。左から山代悟氏、藤田譲氏、腰原幹雄氏、青木哲也氏、稲山正弘氏(写真:浅田 美浩)
[画像のクリックで拡大表示]