街区全体を木造・木質化する
フィンランドの先進的な木造建築を紹介してください。
坂口氏:近年フィンランドを訪れたことのある人なら、シベリウス・ホール(00年完成、ラハティ)、カンピ・チャペル(12年完成、ヘルシンキ)、ヘルシンキ中央図書館(18年完成、ヘルシンキ)などの都市部における木造・木材利用の建築を目にしたでしょう。
こうしたフィンランドの木材利用への取り組みをさらに印象づける大プロジェクトがヘルシンキ市西部で進行中です。オフィス棟、ホテル・商業棟、住居棟、駐車場棟などで構成する複合開発。WOOD CITY(ウッドシティー)という名称が示すとおり、開発地の街区全体を木造・木質化するものです。
各棟ともに地上8階建てで、構造形式は1階をRC造とした木造とのハイブリッド(一部鉄骨造も)になります。地区全体の延べ面積は、約2万6000m2となっています。98戸からなる住居棟は19年に、オフィス棟は20年に完成しています。ホテル・商業棟などが21年中の完成予定で建設中です。
WOOD CITYの鍵を握っているのが、木製品製造販売会社のストラ・エンソ社です。林産品や紙製品の製造販売を行う会社ですが、近年は木造建築の構法の開発から技術的なノウハウまでを持つようになっており、プロジェクト全体を支えています。
林産地であるヴァルカウス市で木材を調達、LVL(単板積層材)を製造、LVLユニットの組み立てを行い、約320km離れたヘルシンキまで輸送し施工しています。つまり「森と都市の連関を生む仕組み」をつくり上げているのです。
いまの日本においては、森林や製材、輸送、需要地である都市での建設、それぞれの結びつきが弱いのが実情です。フィンランドは、森と都市をつなぐサプライチェーンを推し進めており、都市における木材利用の促進につなげています。