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 木造建築で一歩先を行く欧州。その動向に詳しい日本福祉大学建築バリアフリー専修の坂口大史助教が、フィンランドと英国における建築物の木造・木材利用についてリポートをまとめた。先進の取り組みから、日本で木造・木材利用を進めるためのポイントを聞いた。

坂口先生は、フィンランドのアアルト大学大学院で木材利用について学ぶなど、欧州の木造建築の動向に詳しいです。日本では、2010年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」、16年に建築基準法においてCLT(直交集成板)による建築物の設計法に関する告示が施行、19年には木造の防耐火要件を合理化するなど、木造建築を後押しする施策が講じられてきました。その流れを加速するために、先行する欧州から日本は何を学べますか。

坂口大史氏(日本福祉大学建築バリアフリー専修 助教):欧州と一口にいっても、国によって森林資源の在り方や木材利用に取り組む背景は様々な違いがあります。フィンランドと英国という状況の違う両国と比べながら、日本における木造建築の普及について方策を考えてみましょう。まず3カ国の置かれた状況について整理します。

日本、フィンランド、英国の状況(資料:坂口大史)
日本、フィンランド、英国の状況(資料:坂口大史)
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 国土の面積は日本とフィンランドは同じくらいですが、人口についてはフィンランドが550万人と日本の4%にしかすぎません。ただし森林面積は共に国土の約7割。フィンランドの73%というのは、森林率では先進国が中心の経済協力開発機構(OECD)加盟37カ国で1位です。日本もそれに匹敵する森林率を有し、森林大国と言えます。

 英国は、国土に占める森林面積は12%と少ないけれど、人口は比較的多くて日本の半分ほどです。同じ欧州でも、これほど違っています。ただ、フィンランドでも英国でも、それぞれに木造・木材利用が進められています。

なるほど。日本と同様に森林資源が豊富なフィンランド。一方、日本と同様に人口の密集した大都市を抱えるものの、森林資源は乏しい英国。異なる2国をテーマに日本の木造・木材利用について考えるということですね。

坂口氏:まずはフィンランドから。首都ヘルシンキの人口は約60万人です。島と湖が多く、森と湖の国として知られています。

フィンランドの地理情報(資料:坂口大史)
フィンランドの地理情報(資料:坂口大史)
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 フィンランドでは、建築分野で使われる建築材料全体の約40%が木材です。戸建て住宅の約90%は木造だといわれています。

とはいえ、近代化の過程で、オフィスビルや集合住宅などに鉄筋コンクリート(RC)造や鉄骨造が多用されてきたのは世界の状況と同じだったように思います。木材利用が進むきっかけは何だったのでしょうか。

坂口氏:以前は建築材料にコンクリートが台頭していました。1990年代から、建築分野への木材利用が促進され始めました。初期段階の課題は、いまの日本と同様に他の構造との価格競争力と防耐火に関する規制だったといいます。これに対して政府は、財政的な支援と法律の再整備による後押しをしました。

 特にユニークなのは10年代以降に、森林全体を持続可能な資源と捉えて、建築のみならず、森林利用促進に関する法律やプログラムを整備したことです。これは、木造建築における環境負荷の低減や、公共建築やより規模の大きな建築物への木材利用につながっていきました。

フィンランドの建築分野における1990~2000年代の取り組み(資料:坂口大史)
フィンランドの建築分野における1990~2000年代の取り組み(資料:坂口大史)
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フィンランドの建築分野における2010年以降の取り組み(資料:坂口大史)
フィンランドの建築分野における2010年以降の取り組み(資料:坂口大史)
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 16年から取り組んでいる「The wood building programme 2016-2021」では、以下に注力しています。

  • (1)都心だけでなく郊外においても大規模木造を実現する
  • (2)橋などの大規模な土木利用でも木造を推進する
  • (3)木造関連の法律や基準のアップグレード
  • (4)国際的な協働と木造建築に関するノウハウの輸出
The wood building programme 2016-2021(資料:坂口大史)
The wood building programme 2016-2021(資料:坂口大史)
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