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 日経BP 総合研究所 社会インフララボ、日経アーキテクチュア、日経ホームビルダー、日経不動産マーケット情報が2021年2月26日に開催した「木材活用フォーラム2021・春」の概要を紹介する。改正建築基準法施行で中大規模木造の可能性が広がってきた。基調講演では、火災に強い木造建築をはじめ、無理のない木造化・木質化の考え方を解説した。

安井 昇 氏
安井 昇 氏
桜設計集団代表/早稲田大学招聘研究員/NPO法人team Timberize 副理事長

 日本の建築基準法は木造建築には厳しいと思われがちだが、1992年以降、木造に関する法令の合理化や緩和が進み、同時に、安全性を確保するための技術確立も進んでいる。木材は燃えやすいというイメージがあるが、その課題をクリアして、安全性能を高める技術開発が進んでいる。

 太く厚い木材はゆっくりと燃える。この特性を生かし、87年に燃えしろ設計、92年に木造の準耐火構造が可能になった。2000年以降は、防火地域でも建設できる4階建て以上の木造耐火建築物の技術も確立。法令が緩和されると木造にチャレンジする建築家も増え、00年の法令改正以後の約20年間で7500件以上の木造耐火建築物が造られている。

 さらに、15年の建築基準法改正で、1時間準耐火構造による3階建て木造校舎が建てやすくなり、5年で設計中を含め約10棟の木造学校が実現した。さらに19年度改正で耐火要件の性能規定化により、4階建て以上の木造建築も実現可能になった。

 00年法改正後の木造耐火建築物は実例が多く、設計ツールも豊富で、これから木造に挑む設計者も取り組みやすい。一方で19年改正以降に4階建て以上も可能になった木造の準耐火建築物は、先行事例が少なく設計は大変だが、メディアの注目が集まりやすい。 

 国土交通省の統計によると、19年度に着工した建物の用途は、居住用が68%を占め、構造別では木造が82.2%と圧倒的に多い。階数別では木造は1~3階建てがほぼ100%。鉄骨(S)造も1~3階建てが約70%を占め、日本では4階建て以上の建物に携わる設計者が少ないことがわかる。その人材をどう育成するかも、中高層木造建築の普及の課題といえる。

 建物に必要な性能は、①耐震性、②防耐火性、③断熱性・気密性、④遮音性(上下階・隣室)、⑤耐久性、⑥居住性、⑦メンテナンス性などを挙げることができる。この中で木造が鉄筋コンクリート(RC)造に劣るのは④の上下階の遮音性能だけで、それ以外は設計次第と工夫でRC造と同等の性能を確保できると考えている。逆に考えるなら、RC造、S造の経験がある設計者に、木材の特質を知ってもらうことが、日本の中大規模木造の普及拡大には重要だろう。

 木材は、腐る、変色する、割れる、反る、燃えるという不安要素もある。ただし、その原因は明快で「燃える」以外は水分によるものだ。水を絶縁し、適度な乾燥が保てるなら大きな問題はない。一方、燃える不安に関して、19年度版消防白書の火元建物の構造別損害状況では、木造は1万532件、非木造は8489件で、構造別の割合を考えるなら決して多くはない。付け加えるなら、木造建築の防火性能の最低ランクの建物の火災が多いのが実情だ。しかし、新たに供給しようとしているのは、防火木造、準耐火木造であり、耐火木造も実現可能であることを忘れてはいけない。

 設計者は、建て主の木造への不安を軽減・解消するために、木造建築の工学的な知識とともに、素材としての木の物理的性能や、腐り方、燃え方を理解する農学的な知識を統合して、木の長所を生かす設計を考えてほしいと思う。木材は弱い素材なので設計的に守っていかないと短所が出やすい。長所を知り、適材適所で用いることが重要だと思う。

 なぜ建築に木を使うのか。私が伝えたいのは、木が「安全」であることだ。80㎜のスギ材の板を裏側から1000℃近いバーナーの火を当て続け50分経過しても、手前の板の温度は50℃までしか上昇しない。同じ厚みのコンクリート系材料はもっと高温になり、触ることもできない。火災が起きても、木の壁や建具で隔てると、安全で防火性能も確保できる。これ以外にも、軽い、熱伝導率が低い、温まると冷めにくい、ゆっくり燃える、持続可能な素材であるという木材ならではの特性がある。そうした長所を木造建築に織り込んでいくことが設計の手腕だと思う。

 広島県の厳島にある伝統木造の「千畳閣」に行くと、多くの人は木の床に座り空間を体感している。座ると心地よいからだ。木造建築はRC造やS造ではできない空間体験ができる。木造の小学校で木造の良いところを生徒に聞いたアンケート結果では、落ち着く、木の匂いがよい、明るい、触り心地が良い、木目が良いが上位5つの回答だった。感覚的なことなので数値化は難しいが、こうした感覚を大事にしていくことも、木造建築の普及には大切なのかもしれない。

富山県魚津市立星の杜小学校
15年の建築基準法改正で、1時間準耐火構造による3階建て木造校舎の建築棟数が増えている。

写真:東畑建築事務所
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写真:東畑建築事務所
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  • 設計:東畑建築事務所、鈴木一級建築士事務所設計共同体
  • 構造:木造3階建て1時間準耐火建築物
  • 延べ面積:4884m2
  • 木材使用:1369m3(0.28m3/m2