CLT耐震壁の「アイランドコア」
「中大規模の都市木造は、耐震要素をどのように確保するかが大きなテーマになる。タクマビル新館では『アイランドコア』と呼ぶコア部分に耐震要素を集約した構造形式が、免震構造と合わせて効率的に成立するように検討を重ねた」。そう説明するのは、構造設計を担当した竹中工務店大阪本店設計部構造部門構造6グループ副部長の福本晃治氏だ。
福本氏が話すように、この建物の構造は、耐震要素を集約したアイランドコアを採用した点に大きな特徴がある。アイランドコアとは、文字通り建物の外壁から離れて「島」のようにフロア内に配置されたコア部分だ。平面形が約4m×26mの四角い筒状のコア部分が、建物内を1階から6階まで縦に貫いている。
アイランドコア形式によって、東西南北の建物外周全面がダブルスキンの開放的なファサードを実現した。
アイランドコアは、CLTパネルと鉄骨ラーメンのハイブリッド構造で成り立っている。H鋼の柱・梁(はり)で組んだ四角い鉄骨フレームの内側にCLTパネルを接合して、強固な耐震壁を構成するものだ。鉄骨フレームがCLTパネルを拘束することで、CLTの強度性能を効率よく発揮させる。厚さ150mmのCLTパネルは国産のスギ材を用いた。
鉄骨ラーメンと組み合わせたCLT耐震壁の採用は、竹中工務店にとってタクマビル新館が2例目となる。最初の事例は、19年に神戸市中央区に完成した「兵庫県林業会館」だった。
「兵庫県林業会館では構造解析が複雑になり、設計の手間がかかったため、今回は効率的な構造解析手法を開発した」と、福本氏は話す。見直したのは、CLTパネルと鉄骨フレームとの間の力の伝達や接合方法などだ。新たな構造解析モデルを構築して、構造解析の大幅な効率化を図った。
大きな進化の一つは、CLTパネルと鉄骨フレームの接合金物の簡略化だ。双方を直接つなぐ金物は「せん断金物」だけとし、前回、用いた「引きボルト」がなくても成り立つ方法を考案した。
アイランドコアは、フロアの中心ではなく、少し南に寄せて配置してある。南隣に立つ本館との関係を勘案してプランを構成したためだ。
本館と向かい合う南側には、ガラス張りのダブルスキンに沿って幅2mほどのホワイエが続く。簡単な打ち合わせなど多目的に使える開放的な空間だ。一方、アイランドコアの北側には、間口が約30m、奥行き約11mの大空間が広がり、事務室や研修室などに使われている。
事務室などがある北側の空間は、アイランドコアから約11mのスパンが飛ぶため、北側のファサードだけは構造柱を立てている。アイランドコアから約11m持ち出した鉄骨梁の端部を受ける柱だ。
3.2m間隔で9本あるこの構造柱には、大臣認定を取得した2時間耐火集成材「燃エンウッド」を使った。燃エンウッドは、断面が内側から順に「荷重支持部」「燃え止まり層」「燃えしろ層」の3層構造。荷重支持部と燃えしろ層は集成材、燃え止まり層にモルタルという構成だ。火災で表面の燃えしろ層が燃えても、荷重支持部は残るため、現しの木構造を実現できる。
タクマビル新館では、断面が660×630mmの燃エンウッドを柱に使った。木材は、国産のスギとカラマツを使い分けた。より高い強度が必要な建物端部に立つ柱の荷重支持部はカラマツ集成材、それ以外の荷重支持部と燃えしろ層はスギ集成材だ。
燃エンウッドの柱がある2階から6階のうち、2時間耐火が必要なのは2階だけだ。建築基準法上、3階から6階までの4層は1時間耐火部材で済むが、ここではすべての階で2時間耐火部材を使った。「1時間耐火と2時間耐火では部材の太さが違う。この柱は内外観に現れるので、太さをそろえるために2時間耐火で統一した」と、設計をとりまとめた神田氏は話す。