木材だけでダブルスキンを支持
集成材で支えるダブルスキンは、建物の2階から6階までの外周全体を覆う。約70cmの間隔を空けて内側にLow-E複層ガラス、外側にフロートガラスという構成だ。
内外2枚のそれぞれを水平の集成材で受け、その水平材を鉛直に立つ集成材のマリオンや、燃エンウッドの柱で支持している。
外装のガラスを木材で支える事例は多数あるが、ダブルスキンを木材で支持した中大規模木造は、おそらく国内には前例がないだろう。神田氏も「実現までには技術的に苦労した」と振り返る。
ダブルスキンを採用したのには理由がある。内外からの木質感を表現するために、木材でガラスを支持する方針を打ち出したものの、そこには検討すべき課題があった。外からの木材の見え方や、ガラス建築の環境性能だ。
近年、ガラス張りのオフィスビルでは、建物の環境性能を確保するためにLow-Eガラスを用いるのが一般的だ。しかし、Low-Eガラスはガラス表面に金属膜をコーティングするため、特に昼間、外から見たときガラスの内側が見えにくくなる。そのため、せっかくガラスの支持に木材を使っても、通常の納め方のようにLow-Eガラスの内側にあると、木質感を十分に表現できない可能性があった。
そこで、Low-Eガラスを室内側、木材を外側にする案を考えたが、耐久性などの観点から木材を外部に露出させるわけにはいかない。この問題を解消するために行き着いたのがダブルスキンだ。外側にもう1枚、透明なフロートガラスを設けることで、木材の外部露出を回避しつつ木質感の表現を高められる。
ダブルスキンは、ガラス建築の温熱性能を高める効果も持つ。タクマビル新館では、建物の外壁面となるのは内側のLow-Eガラスで、外側のフロートガラスは外装材という位置付けだ。そのため、ダブルスキン内の空気は、外部環境になる。
この条件を生かして、ダブルスキン内に自然通風を促し、熱負荷の緩和に利用した。2階の足元に給気口を設けて外気を取り入れ、重力換気の作用でダブルスキン内を上昇させて、屋上の排気口から排出する仕組みだ。また、ダブルスキン内にはブラインドも設けて、日射を制御することもできるようにした。
ところで、木材で支持するダブルスキンを可能にした条件として、もう一つ見逃してはいけない要素がある。この建物は「延焼ライン」がかからない位置に計画された点だ。また、建物内の防火区画も、アイランドコア部分を利用して形成することで、ダブルスキンに接して防火設備を設けずに済むようにしている。
こうして実現した「集成材ダブルスキン」は、縦横に行き交う集成材同士を、表面に現れない金物で接合した、すっきりとしたディテールで仕上がっている。
この建物では合計で約400m2の木材を使用した。内訳は、構造関係が285m2、仕上げ関係が108m3だ。
「木質感に包まれたオフィスは、働く空間としてなごむところがある。先日、通りがかりの人が、『お、こんな建物ができたんや』と見上げている場面に出合い、ちょっといい気持ちになった」。タクマの辻田氏はそう話す。
建築概要
- 所在地:兵庫県尼崎市金楽寺町2-2-33
- 主用途:事務所
- 地域・地区:準工業地域、準防火地域
- 建蔽率:41.61%(許容60%)
- 容積率:198.10%(許容200%)
- 敷地面積:8659.44m2
- 建築面積:707.89m2
- 延べ面積:3334.35m2(うち容積率不算入部分76.01m2)
- 構造:鉄骨造・木造(基礎免震構造)
- 階数:地上6階
- 耐火性能:耐火建築物(2時間耐火構造)
- 基礎・杭:深層地盤改良
- 高さ:最高高さ33.6m、軒高26.55m、階高4m、天井高2.9m(基準階:3~5階)
- 主なスパン:3.2×11.8m
- 発注・運営者:タクマ
- 設計・監理・施工者:竹中工務店
- 施工協力者:九電工(電気)、三建設備工業(機械、空調・衛生)
- 設計期間:2018年5月~19年7月
- 施工期間:2019年8月~20年10月
- 開業日:2020年10月16日
※建蔽率、容積率は敷地内の既存建物を含む数値