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エネルギー効率を考慮して集合化

 さらに、欧州の街並みについての疑問が湧いてくる。なぜ、建物の高さや階数がそろっているのか、建物と建物の間に隙間がないのか。

 これは、エネルギー効率を考慮した結果だと私は考えている。

 集合住宅を設計する際、戸当たりの外気接触面積の変化を表したのが、以下のグラフだ。

集積戸数による外気接触面積の変化(資料:網野 禎昭)
集積戸数による外気接触面積の変化(資料:網野 禎昭)
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 昔は有効な断熱材がなかったので、外気に触れる面積を少なくすることがエネルギー性能上はとても大切になる。冬季の寒さが厳しい欧州では、熱が逃げていくことは大問題だからだ。このグラフを見ると、階数を4~5階まで増やすと同時に、横に連結する戸数も増やすことで外気接触面積が少なくなることが分かる。

 欧州で形成された街並みを見ると、4〜5階建ての集合住宅が隙間なく連なっている。まさに、エネルギー効率が高い集合住宅の長屋といえる。統一された美しい街並みは、生き抜くための知恵から生まれたのだろう。

 山あいの村々へ行くと、次の写真のような建物を見ることができる。これは共同の台所となるパン焼き小屋だ。

村で共同使用するパン焼き⼩屋。⽕を扱うオーブンを別棟として⽕災を防ぐとともに、貴重なまきの消費抑制につなげた(写真:網野 禎昭)
村で共同使用するパン焼き⼩屋。⽕を扱うオーブンを別棟として⽕災を防ぐとともに、貴重なまきの消費抑制につなげた(写真:網野 禎昭)
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 パンを焼くためには多くのまきを使う。つまり、エネルギーを多く使う。火災の危険もある。木造建築が連なる街では、「火災の危険を減らすために他の建物から独立したオーブンハウスをつくる」ということも法律で定められた。

 パン焼きの石窯をまきで温めて、その余熱で焼くのがパンだ。各戸でパンを焼くと貴重なまきを多く使うことになるし、火災の危険も高まる。そこで、共同体としてみんなでパンを焼くという文化が生まれたわけだ。

 次の写真では、スイスの山の斜面地に集落が帯状に広がっている。こうした風景を見ると、日本人のわれわれは不便で辺ぴだと思うだろう。しかし、現代でも、欧州ではこうした村に暮らすことの人気は高い。下界よりも日当たりがよく、果実や森林資源が豊富にあり、新鮮な水が得られることなどが理由として挙げられる。一昔前まで製材や製粉ができたのは、山を流れる水を動力源にしていたからだ。

スイス・ヴァレー州の山あいの集落(写真:網野 禎昭)
スイス・ヴァレー州の山あいの集落(写真:網野 禎昭)
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スイス・ヴァレー州の山あいの集落(写真:網野 禎昭)
スイス・ヴァレー州の山あいの集落(写真:網野 禎昭)
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 文化的、歴史的に、平地に住むよりも、山あいの集落に住むことが持続可能性という視点からは優位であると考えられているのだろう。

 こうした木の文化の下に形づくられた集落は、現代でも新しい木材産業、木造建築などを生み出しながら、エネルギー問題も解決する共同体として機能している。欧州では、資源が限られていた頃に培われた生活文化から学ぶことで、現代の新しい持続可能性に取り組んでいる。

 フランスの作家のサン=テグジュペリは「大地とは先祖から受け継いだものではなく、子孫からの借りものである」と言っている。木造建築の新奇性や規模、技術の先進性ばかりが注目される昨今だが、それが本当に次の時代のためになっているのか。わが国でも、もう少し先の未来まで見通して、持続可能性を念頭に森林資源を利用する文化を育てるべきではないだろうか。

■変更履歴
3ページ本文第5段落と第7段落の「まき炭材」を「しん炭材」に訂正しました。[2019/04/08 20:35]