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 日経BP総研 社会インフララボは、林野庁の2018年度補助事業において「CLTを含む中大規模木造建築物の設計・施工者育成推進のための提案」検討委員会を組織している。18年9月19日、東京・二子玉川の「柳小路南角」の建設現場で実例見学会と検討委員会を行った。1、2階が飲食店、3階が事務所の地上3階建て、木造・一部鉄筋コンクリート造(RC造)および鉄骨造(S造)の準耐火建築物だ。

 二子玉川は江戸時代より「玉川八景」と称えられた景勝地で、料亭や置屋があり、粋な風情があったという。現在の玉川タカシマヤの裏手から多摩川の土手までに挟まれた地区が、かつての花街。その名残で、いまも複雑に入り組んだ路地空間の飲食店が多く、比較的低層の商業ビルが立ち並んでいる。

 「柳小路南角」の発注者は東神開発(東京都世田谷区)だ。1963年に高島屋を母体として、郊外型ショッピングセンターの開発に当たる会社として設立された。

 東神開発は04年から05年にかけてこの地区を柳小路と名付け、事務所ビルをリノベーションした「西角」、新築の「東角」、木造2階建て住宅をコンバージョンした「まるうめ」など、飲食業を中心にした商業施設をほぼ同じ時期に立ち上げた。さらに09年に「錦町」を、10年には「仲角」を開業し、複数の商業施設を面的に展開してきた。路地空間を生かしながら、街の原風景を再現する形で、にぎわいのある街並みづくりを行おうという考えからだ。

 この柳小路に新しいテナントビル「南角」を新築するに当たって三井嶺建築設計事務所(東京都渋谷区)に相談を持ちかけた。代表の三井嶺氏は、燃えしろ設計による木造・RC造の混構造を提案した。木造部分は一般的な集成材ではなく、木の質感を生かすため素朴なラフ材(製材をカンナ掛けする前の木材)を用いて、これを重ねた梁、束ねた柱によって構成するというものだ。

2018年5月の状況。RC造の基壇の上に、スギ材による重ね梁、束ね柱の木造の架構を立ち上げた(写真:Yasuyuki Takagi)
2018年5月の状況。RC造の基壇の上に、スギ材による重ね梁、束ね柱の木造の架構を立ち上げた(写真:Yasuyuki Takagi)
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 東神開発営業企画部開発グループグループ長の武笠俊彦氏は、「三井氏からは企画の初期段階で木造との混構造という提案があった。この界隈の特性に合うこと、話題づくり、テナントや顧客への共感の持たれやすさや社会性も考慮した上で、社内でスムーズに合意が取れた」と話す。

 柳小路南角の敷地は、近隣商業地域で準防火地域となっており、1、2階の飲食店部分を木造を中心としたRC造との混構造、3階の事務所部分はS造とRC造の混構造としている。

柳小路南角の完成イメージ。1、2階の飲食テナント部分はガラスのファサードの奥に、木造の架構を見せる。テナントによるファサードデザインの自由度を担保する設計とした。3階は事務所利用でS造とし、外壁には木を使う(資料:三井嶺建築設計事務所)
柳小路南角の完成イメージ。1、2階の飲食テナント部分はガラスのファサードの奥に、木造の架構を見せる。テナントによるファサードデザインの自由度を担保する設計とした。3階は事務所利用でS造とし、外壁には木を使う(資料:三井嶺建築設計事務所)
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 木造を採用した理由について、三井氏は「東神開発が掲げる街の界隈性や路地空間というコンセプトに、素材感のある木が適していると考えたからだ」と説明する。また、その素材感をより引き出すために、集成材ではなくカンナ掛け(プレーナー処理)する前のラフ材を使うこととした。

 木材も大断面のものではなく、一般の住宅で使われる一般流通材に近い断面を採用。梁には110×180mm(3寸5分×6寸のカンナ掛け前の製材)、柱には110×110mm(3寸5分角の同様の製材)のスギ材を使った。このラフ材を複数集め、重ね梁、束ね柱とした。それぞれ60mmの燃えしろを見込んでおり、燃えしろが燃焼しても火災時に崩壊しない構造としている。

 発注者からの要望で、テナントビルとして建物をデザインしすぎず、入居するテナントにファサードをデザインする余地が残るようにした。その内側に建物の力強い構造体として、太い木の柱・梁を構成したという。

 柱・梁の組み方については、設計段階にモックアップをつくって検証した。金物は極力見えないようにして、力強い接合部を目指した。使用する接合金物についても、一般に流通している住宅用の製品を使った。接合部については、3次元加工機を用い、手加工ではなくできるだけ機械加工を行った。

<div class="clearBoth"> </div>接合部の組み方を模型で作成したうえで、実物大のモックアップで検証を重ねた(写真:Nanako Ono)
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<div class="clearBoth"> </div>接合部の組み方を模型で作成したうえで、実物大のモックアップで検証を重ねた(写真:Nanako Ono)
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接合部の組み方を模型で作成したうえで、実物大のモックアップで検証を重ねた(写真:Nanako Ono)

 施工に当たっては、柱と梁を工場で束ねた状態にし、現場に搬入して組み上げた。木の架構の建て方は、全体で1週間と早い。組み上げた接合部は、一般的な大断面集成材と異なり、ドリフトピンの跡やプレートとの隙間のない力強い印象となっている。ラフ材は寸法のバラツキがあるが、あえてがたつきを残して束ね、木の肌合いを感じられるようにした。

<div class="clearBoth"> </div>着工から3カ月、2018年5月の木部の建て方の様子。1日に2スパン、全体で10スパンを1週間でスムースに組み上げた(写真:Yasuyuki Takagi)
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<div class="clearBoth"> </div>着工から3カ月、2018年5月の木部の建て方の様子。1日に2スパン、全体で10スパンを1週間でスムースに組み上げた(写真:Yasuyuki Takagi)
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着工から3カ月、2018年5月の木部の建て方の様子。1日に2スパン、全体で10スパンを1週間でスムースに組み上げた(写真:Yasuyuki Takagi)

 1、2階の柱・梁は主に木造だが、3階はS造とし、外装を木で仕上げる。完成時にはファサードにガラス面が前面に出てくるため、木造の架構が外部からそれとなくうかがえるようになる。