日本経済団体連合会副会長を務める東京海上日動火災保険相談役の隅修三氏。経済同友会副代表幹事だった2018年3月、「地方創生に向けた“需要サイドからの”林業改革~日本の中高層ビルを木造建築に!~」を提言するなど、国産木材を活用したビルの普及を経済界に呼びかけている。その思いについて聞いた。

なぜ国産木材をビルに使っていくことを経済界に訴えているのですか。
私は日本の展望を考えたときに、地方経済を立て直さないと大変なことになるという強い危機感を抱いていました。14年に安倍政権下において「地方創生」という政策が掲げられました。地方創生とはご存じのように「東京一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかけ、日本全体の活力を上げること」を目標とした政策です。
15年に経済同友会の副代表幹事に就いたこともあり、同友会のなかに地方創生委員会を立ち上げました。まずは、現場はどうなっているのかと、全国各地を巡り、成功例はもちろん失敗例も見て回り、それぞれの地域の実情を聞いてきました。
私は山口県の山間地域の出身で、木に囲まれて生まれ育ちました。長じて都会で働いてはきたものの、地方において人口が減り、産業が停滞し、そして山が荒廃していくその姿に悲しい思いを抱いていました。
「日本の山は急峻(きゅうしゅん)で、重機を入れられず機械化が難しい」「林業の担い手は高齢化しているが、次世代を担ってくれる若者がいない」「安価な輸入木材にはとても太刀打ちできない」──。各地で林業や製材業に携わる方、自治体の方の話を聞いていくと、将来は厳しい、光が見いだせないという声ばかりでした。
これではどうしようもないなぁ……と諦めかけていたところ、欧州をはじめ海外では木造のビルが建てられていることを知りました。それは主にCLT(直交集成板)という新しい材料を使っているというのです。
最初は分厚いベニヤ板程度の印象でした。ただ、専門家の話を聞くと、強度は鉄筋コンクリートでつくる建物にもひけを取らず、中高層ビルも建設可能だというのです。欧州ではすでに実用化されていて、日本でも木材でビルをつくることができるようになれば、木材の大きな需要をつくり出せるのではないかと考えました。